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俺はれみさんの首にめがけて、大鎌を振り落とす。
まったく躊躇いもなく、大鎌を向けたわけではない。
紗羅はれみさんの真実を知れば、どう思うのか。
許せないと思うだろうか。
いや、紗羅ならきっと、れみさんの気持ちをわかってやれなかったことを悔やむだろう。
そんな風に考える紗羅ならば、俺がれみさんの魂を奪って、れみさんの魂で自分が助かったと知れば、嘆き悲しむだろう。
紗羅は……俺の姉は誰よりも優しく、人を思いやり、純粋さを忘れない。
そんな紗羅の身近にいて、親友だったれみさん。
自分にはないものが紗羅にあると羨望し、嫉妬を抱いたとしても、俺はれみさんが紗羅にしたことを許せない。
れみさんの魂を奪うことは、紗羅の嘆き悲しみも受け止めることになる。
それを覚悟して、躊躇う気持ちを捨てて俺は大鎌を振り落としたのだ。
れみさんの首から胸元に鎌が刺さり、俺はそのまま魂を刈り取ったのだが……
「れみさん」
森の声——森が戻って来ていた。
「こ、幸平さん!」
れみさんが森の元へ走り出した。
走り出しても、もう俺はれみさんの魂を刈り取った後だ。
俺の手のひらには、れみさんの魂がある。
濁った白茶色はくすんだ光を放っていた。
——蒲生の魂の色と、少し似ているな……。
何故か胸が少し苦しくなったが、それを深く考えないようにして、俺はここから去るつもりだった。
俺が歩き出すと、
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」
森が心配するような声を出した。
「樹くんがっ!樹くんが私の魂を取ると言って……」
俺を指差したれみさんは、ガタガタと震えながら森にしがみつく。
「私に刃物を向けて……私を切ったの!」
森はゆっくりとれみの身体を離して、れみの全身を見る。
「切った……?どこも怪我はないようですが……」
「え?あ、そう、そうなんだけど……」
れみさんは自分の首元に手を当て、その手を首元から外して手のひらを見る。
自分の胸元を見て、どこにも傷がないのを確認してから、
「で、でも!ほら、そこに刃物を持って立っているでしょう!」
と俺を指差しながら叫ぶ。
森がゆっくり俺の方を見て、俺の目を射抜くように見る。
森と俺の視線が合う。
——な、なんだ?俺が見えている?
森は両端の口角を上げて、ニヤリと意味深な笑みを浮かべると、
「誰もいませんが……」
と言って、れみさんに視線を向けた。
——やっぱり、見えてないな。
ホッとしたような気持ちになった俺は、顔を下に向けて小さな笑みを浮かべた。
そしてまた、歩き出そうとしたが……
「私のいない間に、魂を取られてしまったのですか?」
——え?
「え?」
れみさんの驚きの声と、俺の心の声は同じだった。
俺は振り返って、森を見る。
れみさんと一緒にインフィニティプールの水際に立っている森は、首を傾げてれみさんに微笑む。
「樹くんとは……梶原紗羅の弟、梶原樹ですね」
と冷酷な笑みを浮かべて、森は一瞬だけ、横目で俺を見た。
——な、なんだ?何故、あの男は俺の名前を知っている?
いや、それよりもあの男……俺が見えているのか?
グリムがあの男の名前を見て、アウトサイダーだと言っていた。
じゃあ、やはり、俺がいるとわかって……いる?
動揺する俺の視線から目を逸らした森は、れみさんにゆっくり振り向く。
そしてこの後の森の行動は、俺の想像を超える行動だった。
それは──
「梶原樹にやられた後……。じゃあ、もう天に飛ぶしかないですね」
そう言って森は片手をれみさんに伸ばすと、そのまま突き飛ばしたのだ。
「——ッ!」
思いも寄らない森の行動に、俺は驚愕して声が出なかった。
無防備な状態で突き飛ばされたれみさんは目を大きく見開き、後ろ向きの姿勢のまま、一瞬でプールに落下していく。
——バッシャーン
プールの水面下に沈むれみさんに呼応して、激しく飛び散る水飛沫。
もがくれみさんを見た俺は、
「なっ、」
何するんだ!と思わず駆け寄りかけた時、俺の腕が掴まれた。
振り向くとグリムが、俺の後ろに立っていた。
真剣な目で俺を見つめるグリムは、無言のまま静かに首を横に振った。
俺は視線をグリムから森へと向けた。
無表情で水面を見つめる森の瞳は、氷の様な冷たい眼をしていた。
プールに沈んだれみさんは手足をバタつかせながら、なんとか自力で浮き上がり水面から顔を出した。
びしょ濡れの髪から水滴をしたたり落とすれみさんは、顔を上げて森を見た。
「何をするんですか?!」
れみさんがプールから出ようと森の足元に近づくと、森はしゃがみ込んでれみさんに微笑みかける。
「後ろを見てごらんなさい」
「え?」
れみさんが、後ろを振り向く。
夜空に溶け込み、高層ビルの灯りでライトアップされたプールの水面を指差して、森が言う。
「ほら、水に浮かんだあなたは、今は人間達より高い位置に飛んでいるのですよ」
森の方をゆっくり向いたれみさんの顔は、困惑と恐怖に満ちた顔になっていた。
森が何を言ってるのか?
れみさんはわからないのだろう。それは俺も同様だ。
ただわかっているのは、森はれみさんに何もしないということはあり得ないってことだ。
れみさんもわかっているから、小刻みに震えていた。
そんなれみさんに、嘲笑う笑みを向けた森は、
「人間界から逃げたいのでしょう?大丈夫ですよ。もうあなたはそこにはいません」
そう言って、れみさんの頭頂部を鷲掴むと、そのまま下に水面下に押し込んだ。
声をあげることも出来ないまま、水面下に沈まされたれみさんは手足をバタバタして、水飛沫を激しく飛び散らせていた。
その水飛沫を被りながら、森は口角を上げて愉快そうに笑う。
俺は——ゾクッとした。
——この男は……人間じゃない。
俺はグリムに振り返ると、グリムは無言で森を見つめていた。
「グリ……」
と俺が言いかけると、グリムは素早く俺を見て、自分の口元に人差し指を立てた。
話すなってことか……。
俺は黙って、グリムに従った。
見るだけにしろと言っていたグリムの意味が、今、理解したからだ。
バシャバシャと激しい水飛沫を立てていたれみさんの動きは、徐々に緩慢となり水飛沫が止まった。
森はゆっくり立ち上がると、プールに背を向けた。
森の背後にあるプールの水面──微動だにしないれみさんが仰向けで浮かんでいた。
無表情で立つ森の元に、黒服の男が静かに近づいてきた。
「幸平様。先程の件ですが……」
と声をかけると、森は黒服の男に向かって淡々とした声で言う。
「ああ、警察は帰ったか?」
「はい」
「そうか」
森は視線を動かし、水面に浮かぶれみさんをチラッと見て、
「ラマンラボに送っておけ」
と指示をした。
何もなかった様に歩き出す森に、黒服の男は
「かしこまりました」
と頭を下げて見送る。
そしてワゴンの側にいたスタッフに目配せをすると、スタッフは無言でワゴンを押して引き上げていった。
森はサイドテーブルの近くまで来ると、シャンパングラスを見て、
「少し飲み足らなかったな」
と言って小さな笑みを見せた。
その笑みを消して歩く森は、俺とグリムの近くまでやってきた。
そして俺たちの横を通り過ぎようとした森は、俺をチラッと見た。
だが森は直ぐに視線を外して顔を下に向けたのだが……
──え?
森は狡猾な笑みを浮かべていた。
その笑みに反応した俺の身体がわずかに動くと、グリムは俺の腕を掴んでいた手に力を入れた。
俺がグリムに振り向くと、 グリムは森の後ろ姿を見ながら、
「彼は人間を監視するアウトサイダー。死神は彼と関わらないようにしている」
と言った。
#ダークファンタジー