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相談室のドアが開いたとき、蓮司はすでに椅子の背もたれに深くもたれていた。
入ってきたのは、どこにでもいそうな女子。制服のスカートをちょっと短くして、笑っているけど、目元だけは少し沈んでいた。
「……あの、友達のことなんですけど」
「お、きたな。“友達”ってやつは大体ろくでもない悩みの火種だ」
「いや、そういう言い方しないでください」
彼女は苦笑しつつ、机に両手を置いた。
「私、いつもグループで一緒にいるんですけど……正直、楽しいと思えないんです」
「でも笑ってんだろ?」
「はい。合わせて……。なんか、“私がいなくても成立するな”って、毎日思っちゃって」
言いながら、彼女の笑みはすっと消えた。
「いなくても困らないなら、私って必要ないのかなって」
「必要かどうかなんて、相手に決めさせんなよ」
「え……?」
蓮司はペンを指で弾きながら、淡々と続ける。
「お前がそこにいる理由は、“呼ばれたから”じゃなくて、“自分で座ったから”だろ。なら、それでいいじゃん」
「……でも、空気悪くしたくなくて」
「空気なんて勝手に流れる。お前がわざわざ息止めて合わせる必要はねえ」
彼女は少し目を丸くした。
「……そういう考え方も、あるんですね」
「ある。ていうか、大体のやつは“好かれてるかどうか”ばっか気にして自分を擦り減らす。でも本当は、“嫌われてもいい自分”を作れたやつのほうが強い」
沈黙のあと、彼女は小さく笑った。
「……強くなりたいなあ、私」
「じゃあまず、“いなくても成立するグループ”にいながら、自分の居場所を勝手に作ってみろ。誰も止めねえから」
彼女は立ち上がりかけて、もう一度こちらを振り返った。
「ねえ、もしほんとに一人になったら……」
「そんときはまたここに来ればいい」
「……ありがと」
ドアが閉まったあと、蓮司は机に足を投げ出し、天井を見上げてひとり呟いた。
「“必要とされたい病”ってやつは、治す薬がねえからな……」