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ドアを開けた瞬間から、彼女はスマホを握りしめていた。 相談室の椅子に座るなり、机に突っ伏す。
「……SNSで“いいね”欲しくて投稿ばっかしてたら、彼氏に“重い”って言われたんです」
「重いって便利な言葉だな。全部切り捨てられる」
「でも、わかるんです。私、ほんとは彼氏に“好き”って言われたいだけで……でも言ってくれないから、他の人から反応もらって安心してる」
指先が震え、画面がかすかに光った。
「なのに、彼氏から“やめろ”って言われると、ほんとに私ってダメなんだなって」
「違うな」
「え?」
蓮司は身を乗り出し、彼女のスマホを覗き込む。
「“承認欲求”は悪じゃない。問題は、欲しがる相手を間違えてることだ」
「……相手を、間違えてる?」
「彼氏から欲しいのに、見知らぬやつらから拾おうとしてんだろ。それじゃ満たされるわけがない」
彼女は言葉を失ったように黙り込む。
「本当に欲しいのは“彼氏に見てほしい私”だろ。でもお前は、彼氏の目を避けて、知らないやつらに差し出してる。そりゃ不安は消えねえ」
「……じゃあ、どうすれば」
「単純な話だ。怖くても、直接ぶつけろ。彼氏に“もっと好きって言ってほしい”って。――それで逃げるなら、そいつはその程度」
彼女の目に、かすかに涙がにじんだ。
「……正直、言えなかったんです。“めんどくさい女”って思われそうで」
「めんどくさい女の何が悪い。素を出せなくて壊れるほうがよっぽど面倒だ」
彼女は息をのんで、それから小さく笑った。
「……言ってみます。たぶん怖いけど」
「怖いくらいでちょうどいい。恋愛は、怖さがないと続かねえ」
彼女が部屋を出たあと、蓮司は窓の外を見ながらつぶやいた。
「……承認欲求をバカにするやつほど、人の目を死ぬほど気にしてんだよな」