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#勧善懲悪
#勧善懲悪
その夜、スレンは箱庭座の搬入口へ、まるで別人の顔で現れた。
明るい巻き髪のかつら、細いヒール、派手すぎるほどの飾りつきの上着。舞台関係者の誰かの愛人にでも見えそうな、嫌味なくらいきらびやかな姿だった。
テオハリは、その手の華やかさに弱い。
案の定、搬入口で見張りをしていた男はすぐに鼻の下を伸ばし、奥の控室へ通した。そこへ遅れて現れたテオハリは、スレンを見るなり目を丸くする。
「おや、初めて見る顔だね」
「表の説明会より、裏の方が面白いって聞いたの」
スレンは笑う。
「本当だったみたい」
テオハリは機嫌よく肩をすくめた。
「選ばれた人しか見られない景色ってあるからね」
「たとえば?」
「たとえば、明日の演目」
喋りたがりの男は扱いやすい。
スレンはグラスを一口だけ口に運ぶふりをしながら、相手の自慢を引き出していく。
町の秘密が舞台の上で暴かれること。
客席へは特別な招待客を入れること。
資料は別棟の倉庫で管理していること。
「厳重なの?」
スレンが首を傾げる。
「もちろん」
テオハリは胸を張る。
「でも数字は簡単だよ。うちの記念日だから、忘れようがない。七と二と一と九」
その瞬間、スレンは笑顔のまま心の中で繰り返した。
七、二、一、九。
ちょうどそこへ、別のスタッフが駆け込んでくる。
「テオハリさん、チョムさんが」
「今行く」
テオハリが舌打ちし、スレンへ名残惜しそうに手を振る。
「またあとで」
「ええ、面白い話の続き、楽しみにしてる」
男が去った瞬間、スレンは笑顔を消した。
壁際の鏡へちらりと目をやる。塗った口紅の赤が、ひどく敵側の色に見えた。
外へ出ると、細い路地の先にサペたちが待っていた。
スレンはヒールを脱ぎ、片手で持ち上げる。
「鍵番号、聞けた」
「早いな」
リボルが短く言う。
スレンは口紅を親指で乱暴にぬぐった。
「自慢したい男は、早い」
七、二、一、九。
その四つの数字が、明日の夜へ食い込む刃になる。
見せびらかすための口が、今度は自分たちの首を絞める番だった。