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翌朝、工房の前へ作業員の車が二台来た。
立ち退きの仮執行だと、先頭の男が無愛想に告げる。まだ正式な手続きが済んでいないことはマイナが調べていたが、向こうは押し切るつもりらしかった。
「どいてください。危ないので」
棒読みみたいな声だった。
工房の戸を背に、トルードが立つ。
その横へピットマンが並んだ。
「危ないのは分かる」
ピットマンは腕をまくる。
「でも、だからって勝手に壊していいわけじゃない」
作業員たちが顔を見合わせる。
数で押せば引くと思っていたのだろう。
トルードは工房の柱へ手を置いた。
「ここ、まだ生きてる。直せる木だ」
「取り壊し予定です」
「予定だろ。決定じゃない」
男が苛立ち、前へ出る。
その瞬間、道の向こうからジュレイの声が飛んだ。
「そこまで」
彼は書類を掲げて走ってくる。後ろにはマイナ、さらにリボルもいた。
「仮執行の前提になる通知手続きに不備があります」
ジュレイは息を整えながら言う。
「この状態で重機を入れれば、そちらが責任を問われる可能性が高い」
作業員の顔色が変わる。
「脅しですか」
「説明です」
ジュレイの声は冷たい。
その冷たさが、今は頼もしかった。
それでも男はなお食い下がる。
「予定が狂うんだよ。上がうるさいんだ」
そこでピットマンが一歩前へ出た。
「じゃあ、うるさい上に言っとけ」
にやりともせずに言う。
「全力投球で止められたって」
一拍遅れて、後ろでキオノフが吹き出した。
緊張しきった空気に、ほんの少しだけ隙間ができる。
作業員たちは結局、重機を下げた。
捨て台詞は残したが、今日は壊せない。
車が去ったあと、トルードがやっと息を吐く。
「心臓に悪い」
「でも立った」
ピットマンが笑う。
「いい立ち方だった」
サペは工房の戸を撫でた。
危うかった。あと少し遅れていたら、ここは粉々になっていたかもしれない。
けれど今日は守れた。
体を張るだけでも、書類だけでも足りない。
全部そろって、ようやく止まるものがある。
そして、明日の舞台でもきっと同じだ。
誰か一人の見せ場ではなく、全員の持ち場で勝つしかない。
#勧善懲悪
#勧善懲悪