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「姐さん、しっかりしてくれよ。こっちは、背負い続けてんだ。結構重いんだわ。っつーか、もう櫻子ちゃん、部屋適当に見繕ってくれっ!」
龍は、驚き腰を抜かすキクへぐちりつつ、櫻子へ懇願した。
確かに、華奢な体つきの金原ではあるが、大の大人を背負い続けるのは大変だろう。しかも、龍は、たってき必要な物の包みを下げてもいる。
「龍さん、荷物は私が。キクさん、そこの客間を使います。お布団、運んでもらえませんか?」
きびきびとした、櫻子の指示に、キクは、見かけも変われば、中身も変わるのかと、驚きつつ、ぼっとしている。
「さっさと、動かんかっ!」
圭助が、たまりかねたように、キクを叱った。
「……櫻子……好きな部屋を使いなさい。もう、ここは、金原さんのものだ……いや、もともとは、お前の家であったのに……」
圭助は、鼻をすすると、また、泣き始めた。
「柳原さんよぉ、ここで泣いたって、遅いだろうよ。櫻子ちゃんのこと思っているなら、どうして、こんなことになっちまったんだい?金原商店へ借金したから、なんていい逃げは、やめてくれよっ」
圭助の態度に、業を煮やした龍が、更にぼやく。
すみません、すみませんと、頭を下げる圭助の不甲斐なさに、龍は、チッと舌打ちした。
「……龍……そのくらいにしておけ」
金原が、口を挟むが、喋ると傷が痛むようで、顔を歪めると、龍の背中で黙りこんだ。
「旦那様!龍さん!ここへ!キクさん!お布団頼みます!私もすぐ、手伝いますからっ!」
抱いていたお玉を下ろして、櫻子は側の部屋の障子に手をかけた。
「あっ、ああ、わ、わかったよ」
キクは、やっと正気に戻ったのか、腰をあげて、布団の用意にと動き出した。
小さな掛け軸が掛かる、客間らしい部屋に櫻子は、龍を招き入れた。龍は、ひとまず、金原を下ろして横たえる。
「龍さん、私、お布団持ってきます!」
「いや!力仕事だ!俺が運ぶわっ」
龍が言い、櫻子から、布団部屋の場所を聞くとキクの後を追おうとするが、廊下に出たとたん、先へ伸びるその様に、改めて柳原の屋敷の広さを感じたようで、これまた、どこへ行きゃいいんだよ、などと、ぼやきながら、ドタドタと足音を立て消えた。
「すまんな、手をかける……」
弱々しい金原の言葉に、櫻子は、目頭が熱くなった。そっと、側に腰を下ろして、すぐに準備すると言うのが精一杯だった。
──こうして、どうにか金原の寝床を作り、結局、櫻子は、古巣とも言える柳原家の裏方で、ヤスヨとキクと顔を付き合わせていた。
「櫻子さん、わざわざ、昔の着物に着替えなくても」
ここで着ていた、木綿の質素な着物に着替えている櫻子へヤスヨが言った。
「で、でも、ヤスさん、血が。櫻子さんの着物、血で汚れてたから、着替えた方がよかったんじゃないかい?で、でも、まさか、勝代がねぇ……」
櫻子へ詰めよって、おおよその事情を聞いたヤスヨとキクは、珠子を含めた皆の様子に納得しつつも、結納の席で起こった惨事に驚きを隠せないでいた。
「だからっ、櫻子ちゃんの一大事だったんだよっ!!まったく!柳原の家ってのは、とことん、やってくれるねっ!!!」
いきなりの怒鳴り声に、ヤスヨとキクは、ポカンと呆けた。
「ああ!!こんな、でくの坊じゃあ、櫻子ちゃん一人に、荷が掛かるって訳だ!でぇ!あんたら、まだ、櫻子ちゃんを、こき使うつもりなのかいっ!!あんたらは、女中だろっ!!!」
目を見張るヤスヨとキクの視線の先には、お浜が、すりこぎを持って立っていた。
「しかし、なんだねぇ、広いったらりゃ、ありゃしない」
お浜は、ぶつくさ言いながら、ヤスヨとキクへ、もう夕餉の支度時だろうがと、渇を入れた。