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彼の口からでた言葉はあまりにも意外すぎて、耳を疑った。
彼が召喚聖女をプレイし始めたのは私と別れてからだと言った。別れたというのに、別れた女の好きだったものをプレイしようだなんて普通は思わない。
私だったらきっと、アプリごと消してしまうだろうに。
「だが、インストールしていざ始めようと画面をタップしたらこうなっていた」
と、彼はリースになっていたと両手を広げた。
何をしても様になるところが憎たらしいことこの上ない。
「ふーん、じゃあこの乙女ゲームについては何も知らないんだ」
「ああ……だが、まあそれなりに楽しんでいるぞ」
適応力高い陽キャはこれだから……
彼は、この世界にきて何年も経っていると言っていた。こっちとあっちの世界ではどうやら時の流れ方が違うらしい。
それはそれと置いておいて、彼はもう既にリースとしてこの世界に溶け込みヒロインを待っているだけの存在になっていたと言うことになる。自分が攻略キャラだという自覚はあるらしく、無意識にヒロイン以外の女性とのフラグを完膚なきまでに折っていたりしている。そもそも、現世でも彼は女性がそこまで好きではなかったし。
私はちらりとリースを見た。
彼は、私と再会できたことが嬉しいのか頬が緩み愛おしいものを見るかのような目を絶えず私に向けていた。
推しに見つめられている幸福と、元彼にまだ思われているというなんとも言えない虚無感に私は板挟みになっていた。
彼は何も知らない。
この乙女ゲームについて何も知らないから私にそんな目を向ける事が出来るんだ。
私の此の世界での役割を知らないから。いずれアンタに嫌われ殺される運命だというのに……と、いうことは。
(好感度をそこそこ保ちつつ、他の攻略キャラの好感度あげてくっついちゃえば殺されることも、元彼とくっつくこともないってことよね!?)
よし、これだ。と私はガッツポーズをした。
その様子をばっちり見ていたリースは、咳払いして顔を背けた。
「取りあえず今日はもう休め。続きは明日にしよう」
一応私の身体を気遣ってくれていることには感謝しよう。と、私がリースにお礼を言おうとしたときガチャリと扉の開く音がした。
「殿下、聖女様のお部屋の準備が整いました」
「ノックをしろ、ルーメン」
部屋に入ってきたのは、灰色の髪のイケメンだった。
しかし、私の記憶の中には彼はいない。好感度も表示されていないし攻略対象でないことは確かだ。
私がそう考え、灰色の髪男をじっと見つめていると視線に気づいた彼は深々と頭を下げた。
「これは失礼しました。お初にお目にかかります。聖女様。私は、リース皇太子殿下の補佐官、ルーメン・フェヌアと申します」
あ、そういえばこの人見た事あるわ。と私は手を叩いた。
そうか、そう言えばリースの補佐官ってこの人だった気がする。ゲーム内では一回、二回出てきた程度だったから忘れていた。
にしても、イケメンだなあ。この乙女ゲームの世界にブスは一人もいないのだろうか。まだ二人しか会ってないけど。
「聖女様、体調の方は大丈夫ですか?」
「あ、えっと……ちょっと疲れてるかな……程度で。ああ、でもぴんぴんしてますよ!」
私は心配そうな顔でこちらを見てくるルーメンさんに、慌てて笑顔を作って見せた。
そんな私を不機嫌そうな顔でリースは睨み付けていた。
(ああ~推しに睨まれてる。中身は元彼だけど)
背中に刺さる視線が痛かったが、既に疲れ切っている私にはそんなこと大してどうってことなかった。早く横になりたい。
私はルーメンさんに案内されるがまま、部屋から出て行こうとするとリースが口を開いた。
「俺の部屋でもいいんだぞ」
「あ、結構です。そういうのいいんで」
私は片手をあげて首を横に振った。
何言ってんだコイツ。
中身は元彼でも、外見リースだったら一緒に寝れるわけないでしょうが!私を殺す気か!
分かった、萌え殺しってやつか!?それ死亡エンドよりきつくないか!?
私は、もう一度「結構です」とリースに告げ部屋を出た。