「聖女様大丈夫ですか?」
「え、何のことですか?」
廊下にて、私はルーメンさんに声を掛けられた。
彼の問いの意味がよく分からず、私は小首を傾げた。すると、彼は困ったような表情で言った。
「殿下の事です」
「リースの…リース殿下の事ですか?いや、別に」
「それならいいんですけど」
と、ルーメンさんは苦笑いを浮かべた。
私は如何しても気になってしまい、ルーメンさんに再度尋ねた。すると、彼は観念したように話し始めた。
「殿下は、女性嫌いで……本当は聖女の召喚にも反対していたんですよ。それで、召喚士達から殿下が聖女と二人きりで喋りたいと連れて行ったという話を聞いていても立ってもいられなくて」
「へー……」
まあ、中身が元彼だからね。
そんなこと言えるはずもなく、私はそうなんですか。とルーメンさんの話しに適当に相槌を打った。
確かに、本来のリースは女嫌いでエトワールには興味を示さなかった。そして、リースの中身の遥輝もまた女嫌いである。
エトワールの中身が私じゃなければ、彼もきっと彼女に興味を示さなかったのだろう。
「あはは…その心配して下さったんですね。私の事」
「勿論です。聖女様は、この帝国を救う光ですから」
私は、そう言われ少し胸がチクリと痛んだ。
ルーメンさんや、召喚士だけじゃなく、帝国民は皆私の事を本物の聖女だと思っている。
聖女は、この帝国にとっての光で救世主。だからこそ、私に対する期待や信仰は計り知れないほど大きい。それを、私はこれから背負わなければならない。
しかし、一年後に召喚される本物の聖女、ヒロインが現われた途端私は偽りの聖女として殺されるのだ。
それを何としてでも回避しなければ――――……
「そうだ、聖女様。明日は朝一で神殿に参りましょう。そこで、聖女様のステータスを確認して頂きます」
「すて、ステータス?」
私が、これからのことを考え落ち込んでいると不意にルーメンさんからそんな話題を振られた。
神殿、ステータスと言われ私の頭は混乱していた。
「はい。聖女様の魔力量を神殿の神官達が調べたいと」
「あー……はい。分かりました」
私は、とりあえず返事をした。
聖女だし、ラスボスだしステータスは異常なほど高いに違いない。しかし、本ストしかプレイしていない私にとってあまり聞き慣れない単語だった。
もしかすると、エトワールストーリーでは魔法を駆使して攻略をするという感じだったのだろうか。バトルメインの攻略……いやそれは、はたして乙女ゲームなのだろうか?
拒否権なんてものあるわけもなく、私はコクリと頷くことしか出来なかった。