金曜日。
豪は定時で仕事を切り上げ、急いで自宅に戻ると、まずはシャワーを浴びた。
黒のキーネックTシャツと洗いざらしのデニムの格好で、軽く晩飯を食った後、ざっと部屋の掃除をする。
更に、昨夜購入したカラフルな長方形の箱から、コンドームを数個ほど取り出しておき、箱と一緒にベッドサイドのチェストに忍ばせた。
ひと通り奈美を迎える準備が整ったところで、彼は駅へ向かう。
まだ十九時半。
彼女は二十時くらいに着くように行く、と言っていた。
改札の前で奈美が来るのを、気持ちを昂らせながら待ち続ける。
十九時四十五分。
中央線の上り電車が到着し、ホームへ通じる階段から多くの人が改札へ流れてきた。
仕事帰りの人や部活を終えた高校生など、豪の前を交差しながら通り過ぎていく。
乗客がすっかり引いた後、階段をゆっくり上ってきた、俯き加減の女性がいた。
(奈美……?)
グレンチェックにワインレッドの膝下スカート。
見た目は上下別に見えるが、どうやらワンピースのようだ。
細いベルトを締め、黒い靴を履いている奈美が、服装には似つかわしくない大きさの腕時計をチラリと見ている。
到着時間を確認しているのだろう。
一足先に秋の色を纏った彼女。
親友の純が知らせてくれた通り、少し痩せて髪が大分伸びていた。
「奈美っ……!」
豪が声を掛けると、奈美はパッと顔を上げ、はにかんだように微笑んだ。
ICカードを自動改札に翳し、ゆったりとした歩みで、彼の方へ向かってくる。
やっと……やっと…………会いたくて堪らない女に再会できた。