第2話:大統領の影
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
カメラの前でまひろは、クリーム色のトレーナーにジーンズのハーフパンツ姿。小さな腕時計をしているが、サイズが大きめで遊んでいるのが子どもらしい。瞳は真っ直ぐで無垢な光を放ち、言葉を選びながら話し出した。
「ねぇミウおねえちゃん……大統領って、本当に国民のために動いてるのかな。
この前の演説、なんか“お金”のことばっかりに聞こえちゃったんだ」
横にいるミウは、淡いラベンダー色のワンピースにベージュのニットカーディガン。髪をサイドでゆるく束ね、小さな花のブローチを胸に付けている。ふんわりと笑って、まひろの肩に手を置いた。
「え〜♡ お金が優先されちゃうと、国民は不安だよね。
だって私たちの毎日って、戦争ビジネスのためにあるんじゃないもん♡」
コメント欄には「わかる」「確かに最近そんな感じ」「守ってくれてるのかな?」と不安混じりの声が並ぶ。
Zの工作
暗い部屋。
**Z(ゼイド)**は灰色のキャップを深くかぶり、パーカーのフードをかぶった姿でPCの前に座っていた。
モニターには大統領の過去の演説映像が並び、AIソフトで切り貼りされていく。
「国防を守るために……」という発言の後に、別の映像から切り取った声が繋がれた。
「……武器を買い、売ることで経済を回す」
音声は違和感なく滑らかに繋がり、字幕も完璧に調整される。
Zは口元を吊り上げ、低くつぶやいた。
「国民のため、か……。今夜は“戦争ビジネス大統領”で炎上だ」
拡散と炎上
翌朝、SNSのタイムラインには「大統領、武器売買容認?」の文字が躍った。
動画は数百万回再生され、「#戦争ビジネス大統領」がトレンド入り。
「結局は軍需産業の犬」
「国民より武器を優先するのか」
「平和を壊すリーダーはいらない」
怒りの声は外交関係にまで飛び火し、同盟国の政治家が「懸念」を表明する。
市場は不安定になり、株価が乱高下した。
レイNewsの記事
その夜のレイNews:
「武器ビジネス大統領」演説疑惑──国際社会に衝撃
市民の声『命より武器を選んだ』
外交筋『信頼は揺らいだ』
記事は「疑惑」の形を取りながらも、巧妙に“既成事実”として広まる書き方だった。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろはクリーム色のトレーナーの袖をぎゅっと握りしめ、真剣な瞳で言った。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに、みんな怒っちゃった。
戦争のこと、こわいよ」
ミウはやわらかい笑みを浮かべ、花のブローチに触れながら語った。
「え〜♡ でも、怖いからこそ声をあげるんだよね。
国民が考えるきっかけになるって、大事なことだと思うよ♡」
コメント欄は「ほんとに考えなきゃ」「行動したい」「守るために声をあげる」――無垢な疑問が、怒りを正当化する空気を広げていった。
結末
暗い部屋のモニター前で、Zが笑った。
「よし……次は候補者を全部、地に落としてやる」
画面には、大統領選候補たちの顔写真と演説映像。
その一つ一つに「裏切り」「腐敗」というラベルが貼られ、編集用のタイムラインに並べられていた。
> 無垢な問いとふんわり同意、その裏で“戦争ビジネス大統領”の烙印は世界を揺るがし、次なる選挙混乱への布石となった。