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第3話:選挙の混乱
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に映るまひろは、チェック柄のシャツにデニムのショートパンツ。足元はスニーカーで、子どもらしい無邪気な装いだった。大きな瞳をきらきらさせながら、少し困ったように話し出す。
「ねぇミウおねえちゃん……大統領の選挙って、国民のためになる人を選ぶはずだよね。でも……誰を見ても“本当かな”って思っちゃうんだ」
隣のミウは、ライトグレーのブラウスに淡い緑のロングスカート。髪をひとつにまとめ、小さな真珠のイヤリングを揺らしながら、やわらかな笑みを浮かべていた。
「え〜♡ 確かにねぇ。候補者ってみんな“いいこと言う人”ばかりだけど……裏では何してるのかなって、考えちゃうよねぇ」
コメント欄には「どの候補も信用できない」「結局は同じじゃん」という声が次々と並ぶ。
Zの操作
暗い部屋で、**Z(ゼイド)**がモニターを覗き込んでいた。灰色のパーカーにジーンズ、キャップを深くかぶり、薄緑の光に照らされている。
画面には大統領候補たちの演説映像が並び、AIで切り貼りされていく。
候補A:「市民の未来を守る」 → 「……裏金で」
候補B:「平和を望む」 → 「……だが軍需産業に協力する」
候補C:「教育を第一に」 → 「……利権のために利用する」
声色も自然に調整され、テロップも完璧に補正された。
Zは冷ややかに笑いながら指先でキーを叩く。
「全員が“腐敗”に見えれば、誰も選べない。民主主義は、簡単に空洞化する」
炎上と不信
翌日、レイNewsに記事が並んだ。
「候補A、裏金スキャンダルの疑惑」
「候補B、軍需企業とのつながり」
「候補C、教育利権への関与」
すべて“疑惑”の形を取っていたが、映像があることで人々は「事実だ」と信じ込む。
SNSでは「#I trust no one.(#誰も信用できない)」がトレンド入り。
街頭インタビューでは「誰に投票しても裏切られるだけ」と語る市民の映像が流れた。
投票日
投票所は閑散としていた。
市民は「無意味だ」「選べない」と口にし、投票率は戦後最低を記録。
選挙管理委員会は「民主主義の危機」と声明を出すが、それすら「隠蔽だ」と疑われ、誰も耳を貸さない。
配信の夜
まひろはチェックのシャツの袖をぎゅっと握り、無垢な声で言った。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに、誰も投票しなくなっちゃった」
ミウはやわらかい微笑を浮かべ、真珠のイヤリングを指で軽く触れながら語った。
「え〜♡ でも、それって逆にすごいことだよね。
国民が“誰も信じない”って意思を見せたんだもん。
それも立派な民主主義の形じゃないかな♡」
コメント欄には「なるほど」「信じない自由もある」「国民が目覚めた」と肯定的な声が並んだ。
結末
暗い部屋のモニター前。
Zは膝に置いた手を叩き、にやりと笑った。
「投票率を下げるなんて簡単だ。次は……法そのものを書き換えてやろう」
モニターには、改正を控えた法律の草案が映し出され、赤いラインで切り貼りの痕跡が走っていた。
無垢な疑問とふんわり同意、その裏で民主主義は空洞化し、世界は“誰も信じない”という地獄に足を踏み入れていた。