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#勧善懲悪
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夕方、公園の一角へふわりと甘い匂いが流れてきた。
ローレリーズが大きな箱を抱えて現れたのだ。白い箱を机へ置くなり、胸を張る。
「先に言っとくけど、慰めじゃないわよ」
ふたを開けると、小さな焼き菓子がきっちり並んでいた。表面には砂糖で薄く、雨粒みたいな模様が描かれている。
ピットマンが目を輝かせる。
「うまそう!」
「勝つ日の分を先に焼いただけ」
ローレリーズは当然みたいに言った。
「負けてから焼くと、粉の配合が荒れるの」
エリアが吹き出した。
「そんな理由ある?」
「ある。私はそう決めてる」
その強さが、妙に頼もしかった。
みんなで菓子をつまむ。テオファイルは一口食べて目を閉じ、キオノフは丁寧に礼を言い、トルードは「思ったより重くない」と失礼な感想をこぼして叱られた。
笑いが広がる。
ローレリーズは箱を畳みながら、さりげなく言った。
「それと、商店街の何人か、もう腹くくってるわよ」
「何を」
サペが聞く。
「向こうへ行かないってこと。口に出してないだけで」
彼女は顎で公園を示した。
「人はね、脅されると黙るの。でも、黙ってるのと、負けるのは別」
その言葉は甘い匂いより強く残った。
帰り際、ローレリーズはサペへ小さな包みを押しつける。
「それ、工房で食べなさい。黙って考え込む顔、砂糖足りてない時の顔だから」
受け取った包みの中には、ひとつだけ形の違う焼き菓子が入っていた。赤い砂糖粒が乗っている。
レッドタイガーアイみたいだ、と一瞬思う。
その赤を見た時、サペの胸には不思議と「まだいける」という感覚が戻っていた。