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#勧善懲悪
#勧善懲悪
箱庭座の内覧会が続く一方で、テオハリはもっと露骨な手を打ってきた。
夜の商店街。閉店後の裏通りで、若い店主たちが一人ずつ呼び止められていた。
「今なら移転費用も保証します」
「新しい施設の一階、いい場所を押さえられますよ」
「古い町に義理立てして、未来まで失うことはないでしょう?」
その言葉に揺れる気持ちは、責められない。
キオノフの店へ集まった面々の前でも、空気は重かった。
「正直、条件は悪くないんだよ」
若い靴屋の店主がうつむいて言う。
「借金がある家には、でかい」
トルードが机をたたいた。
「だからって飲まれるのか」
「飲まれたくなくても、腹は減るだろ!」
一気に声が荒くなる。
ピットマンが間へ入ろうとして、逆にぶつかった。
「落ち着けって」
「おまえは配達でどこでも走れるからいいよな」
そのひと言で、部屋が凍った。
責めた本人も、言ってしまったあとで顔を青くする。けれど取り消せない。
サペは黙っていた。責めるのは簡単だ。だが、迷う相手へ正しさだけを投げても、追い詰めるだけになる。
そこへテオハリ本人が店の前へ現れた。
「こんばんは。答えは急ぎませんよ」
にこやかな声なのに、全員の神経を逆なでする。
「ただ」
彼は肩をすくめた。
「残る側にも、勝ち目くらいは必要でしょう? 情で店は続きませんから」
言い返しかけたエリアを、ジュレイが手で制した。
テオハリは最後に一枚の紙を置いていく。移転条件の一覧だ。家賃免除、改装費補助、優先出店権。
数字だけ見れば、魅力的だった。
その紙を前に、みんな黙る。
サペはそこで初めて思い知る。
敵が狙っているのは土地だけじゃない。
善い側の足並みそのものを、値段でばらばらにする気だ。