テラーノベル
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皆さんこんにちは!! 芽花林檎です。
今回も続きです。コメントなどお待ちしております!では、どうぞ、ご覧下さい!!
夢を見ていた。
記憶の遠く、ぼんやりと浮かぶ光景。
ランタン。
蝋燭。
群青の空。
冬。
冷たい風。
鮮明な感覚。
でも、靄のかかった風景。
その記憶の奥で、微かに聞こえる声。
聞いたことのある、声。
「ねぇ、いつの話だったっけ」僕は聞いた。
「わかんない。もう遠い昔な気がする」と返事された。
小さな子供の手を握り、その子に微笑みかけた。
「だよね。僕も憶えていない」僕は答えた。
そんな夢を、見ていた。
暖樹(はるき)は空を見上げた。
群青と橙色が溶け合い、その境界線が淡くグラデーションを織りなしている。
綺麗だ。
暖樹は母に頼まれていた最後の品を買い終え、市場の出口に向かった。
石畳の上に、柔らかい光が落ちた。
買い物袋は思ったよりも重い。
手袋越しでも手が凍てつきそうなほどに冷たくなっていた。
冬だ。
ぼんやりとそんなことを暖樹は思う。
その時だった。
ふと、彼は気が付いた。
市場の端、雑貨店の端に。
独りの少女が立ち止まっていた。
年齢は、暖樹と同じくらいだろうか。
黒髪。
飾り気のない服装。
ランタンの無数に輝く橙色の宝石ような光を受けても、不思議なくらい印象が薄い。
まるで、影が立っているかのようだった。
独りの少女は何も買わない。
黙って店先を見つめている。
暖樹は、一度視線を向けた後、通り過ぎようとした。
その時。
雑貨店の店主が、店のわきに置かれた、古びた木箱を持ち上げた。
中にあるのは、売れ残った蝋燭。
欠けたもの、短くなったもの。
商品にならないと思われるものばかり。
店主はそれを店の横にあるごみ箱に入れた。
続いて、湿って使い物にならなくなったマッチ。
落として壊れてしまった硝子の装飾、ランタン。
最後に、傷のついた宝石細工。
少女の視線が僅かに動いた。
何故だろう。
暖樹は足を止めた。
店主が店に戻った。
「いらっしゃいませ~」などとお客に声をかけている。
市場の喧騒は相変わらず続いている。
誰もその様子を気に留めない。
少女は、周囲を見回しもしなかった。
静かに歩み寄る。
そして、ごみ箱の中から、先刻の蝋燭とマッチを取り出した。
壊れた硝子の装飾の破片が付いていて、ランタンの橙色の光に反射して光った。
少女はそれを払いのけ、蝋燭とマッチを手で握りしめると、そのまま市場の外れへ歩き始めた。
暖樹は眉を顰める。
使うのだろうか。
今日は凍てつくほど寒い。
何枚も羽織っているのに、寒さが身を刺している。
暗くなるのも早い。
拾って帰る人がいても不思議ではない。
少女はそのまま市場の外へ歩き始めた。
暖樹は理由もわからないまま、その後姿を目で追う。
やがて、少女は細い路地へ入った。
市場のランタンの光が届かない、暗い場所。
凍え死にそうな、場所。
そこに、小さな子供が、独り、蹲っていた。
薄い服。
赤くなった指先。
寒そうだった。
少女は何も言わない。
ただ手に握りしめた蝋燭を取り出した。
マッチを擦る。
小さな炎が生まれる。
橙色が冬の夜の闇をほんの少しだけ押し返した。
独りの少女は、マッチを蝋燭に近づけた。
暖樹の瞳にはそれが無性に綺麗に見えた。
すると、少女は。
ーその蝋燭を、子供に差し出した。
独りの少女は、何も言わない。
ただ、子供の小さな手が蝋燭を包むまで、ただその小さな炎を子供の顔の前に差し出していた。
子供は驚いている。
少女は、ただ蝋燭と残りのマッチを子供に渡す。
それだけだった。
そして踵を返す。
子供は何か言おうとしたが、少女は振り返らなかった。
暖樹は茫然としていた。
なぜそんなことをしたのか。
なぜ何も言わなかったのか。
そして、そのまま立ち去ったのか。
助けたかったのなら、ほかに方法があっただろう。
なのに少女は、まるで最初からそこにいなかったのかのように、闇の中に溶けた。
市場には相変わらず笑い声が響いている。
ランタンの淡い光が揺れている。
空は群青へ沈み始めている。
暖樹だけが立ち尽くしていた。
ただ一つの疑問が残る。
買い物袋の重さも、冬の身体を刺すような寒さも忘れて。
そう、ただ一つの、疑問が。
それだけが、頭の中を埋め尽くしていた。
ーーあの子は、いったい何者なんだろう。
お読みいただきありがとうございました! また次回のお話でお会いしましょう。
コメント、フォロー等大歓迎しております!
余談ですが、Xのほうにも投稿したりしています。(基本小説情報です)
お時間あればご覧になってみてください。
よろしくお願いします!!
2026/07/30 芽花林檎
コメント
2件
ありがとうございます!
芽花林檎さん、第3話読ませていただきました🕯️ 冬の市場の風景がとても鮮やかに浮かびました。何より、あの少女がゴミ箱から拾った蝋燭を、黙って寒そうな子供に差し出す場面——無言の優しさが胸に沁みました。暖樹くんの「なぜ」という疑問、すごく共感します。あの少女は何者なんだろう……続きが気になります。 ランタンの灯りや群青の空の描写も綺麗で、読んでいる間、その世界にいるような感覚になりました。次のお話も楽しみにしています🌷
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