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王都はこのヒト種の王国の王城を中心にしたこの国最大の都市であり、その周辺には昔は交流のさかんな他の街もあったが、今はそれらは魔獣からの侵略を防ぐ砦に変えられている。ここで詰めているのは下級の国軍兵士と奴隷の獣人、亜人種にヒト種の貧民である。
従って、王国とは王都で王都とは王国といった認識となっている。砦に詰めている者たちを除けば王都外で働く農民たちも住居を王都内にしているのだから、あながち間違いではない。
そんな砦がこの月が輝く夜に魔獣の襲撃を受けていた。
堅牢な石造りの砦はまだ耐えているがそれも長くは保たないだろう。
攻めてきているのは3頭のビッグボアとよばれる猪の変異した魔獣だ。
その突進は凄まじく、三段構えの外壁を既に1枚崩してしまっている。
高所からの魔術攻撃も弾かれて意味をなさない。
「獣人たちを向かわせろっ! 何としてでも食い止めるのだ!」
身体能力の高い獣人に槍を持たせて特攻させればなんとかなるかも知れない。
奴隷たちは貴族が初代のニホン人である英雄が作り、遺した魔道具で服従させられている。なんでもそういう風にするのが初代たちの中では常識だったとか。ニホンは平和で身分格差もない異世界の国と言っていたのに矛盾した常識だ。
おかげでその魔道具さえあれば、こうして大した取り柄のない下っ端兵士でさえ一方的に使役できるし、慰み者にも出来ている。
獣人たちは槍を持たされ押し出されるが、魔獣の突進を止めることは出来ない。正面など論外、横にステップして突けばなどと言うが、そんな質量のものが速さと力をもって走るところに突き立てようものなら槍先だけ引っ掛けた時点で押し負けて、吹き飛ばされるか転がされるかだった。
体高2mほどの魔獣に成す術もなく、2枚目の壁は崩れてしまう。積み上げた石を固めたものを破壊する勢いで突っ込む魔獣がただの槍などでどうとできるはずもない。
「くそっ、もう来るではないか! 役に立たんっ、おい、お前たちっ、俺が王都に知らせに行くのに出るまで食い止めておけ!」
もう破られそうな外壁を越えれば、監視と住居を兼ねたこの砦本体に届く。その前に逃げるのだこの男は。
他にいた2人の国軍兵士も逃げ出したようだ。こんな所の監視をやらされるのはまだいいが、貧民や奴隷たちと死ぬなんてまっぴら御免なのだ。
「くそっ……あいつらだけで逃げやがった! 俺たちは、それでも戦わなきゃならんのか⁉︎」
虎の獣人が既に立つのもやっとの体で立ち向かう。本来ならば屈強な獣人だが、ろくに食べ物も与えられていない。奴隷として扱うために魔道具があるものの、小心者の兵士らはそれだけでは安心出来ずに体力を削いでいたのだ。
「奴らのために死ぬつもりはない。だがこれでは……」
他の獣人たちも疲弊しきっている。中には今にも倒れそうなほどに満身創痍の者もいる。踏まれでもすれば死ぬだろう。
とうとう最後の外壁を突き抜けたビッグボアの3体は、そこで立ち向かう獣人たちには目もくれず、砦を破壊せんと突進する。