テラーノベル
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しばらく森を歩き続けたレイは、ようやく森の出口に辿り着いた。 ボロボロの服ではあったが、新たな一歩を踏み出す覚悟に満ちていた。
「……もう一度だけ…冒険者になってみるか」
森の向こうには活気あふれる村が広がる。カラフルな市や行き交う人々、家畜の鳴き声まで賑やかだ。
久しぶりの明るい場所に、レイは思わず弾む足取りになる。
「なんだか、久しぶりに人に戻れた気分だ……こんなに賑やかな空気、どれぐらいぶりだろう」
まずは身なりを整えようと、服屋を探して市場の通りを歩く。
すると、ふと路地裏のほうで小さく切羽詰まった悲鳴が聞こえた。
「――助けて……ください……!」
レイは足を止めて耳を澄ませる。もう一度、はっきりとした悲鳴。
「……ちっせっかく明るい気分なのに」
迷いなく路地裏に駆け寄ると、そこには男2人の騎士が、少女に無理やり手を伸ばしていた。
騎士A「いいじゃん、いいじゃん……お前、冒険者のくせに意外といい体してんじゃねぇか」
騎士B「触らせろよ、なぁ……」
少女「や、やめてくださいっ!」
あきらかに抵抗している少女。
その隣にいる獣人の少女が言う
「や、やめろお前ら!」
騎士たちがレイの方を振り返り、嘲るように笑った。
騎士B「おいおい、伊勢(いせ)が強い割に結構デケェ胸してんじゃねぇか。ヒーロー気取りか?」
騎士A「さぁ、ヤらせてもらうとするか……」
その瞬間だった。
周囲の光が、黒煙に覆われるようにして一気に失われ、路地裏が真っ暗闇となった。
騎士A「な、なんだ!? 急に真っ暗になりやがって……!」
(めんどくせぇし きめぇ)
「おい嫌がってんだろもうやめとけよだっせぇ」
低く静かな声で、レイは暗闇から姿を現す。
騎士B「誰だ、貴様!? ただの通りすがりじゃ済まされねぇぞ」
「俺は……魔術師だ」
そう名乗った瞬間、レイの体は黒煙に紛れて消え、騎士Aの背後へ回り込む。
「燃えろ――」
炭化した右手は高熱となり、騎士Aの鎧ごしに背中を灼熱にし溶かす
騎士A「あ、あちぃぃっっ!!! や、やめろ!!」
弾かれたように騎士Aが倒れ、もう一人の騎士が武器を振り回す。
騎士B「だ、誰だか知らねぇが……覚えてろよ!!」
二人の騎士は慌ててその場から転がるように逃げていく。
レイの黒煙は腕からゆっくり吸収され、再び静寂が戻った。
少女「……あ、ありがとうございます!」
別の少女「ほんと助かりました……!」
レイは少し照れくさそうにふっと苦笑する。
「ん?ああ、別に気にすんな。困ってる人を見過ごせなかっただけだ。……それだけさ。じゃあな」
手をひらりと振り、気配が消える。
次の瞬間、レイは黒煙とともに空を駆け抜け、街の屋根の上へと身を移した。
「……ふぅ。やっぱり、誰かを守るのって悪くないな――魔術師、か」
目の前には輝く青空。そして小さな達成感と、少しだけ胸を張った自分がいた。
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