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しばらくして夕飯時にその旦那さんは帰宅してきた。
「ただいま。おや、お客さんかい?」
「ええ、相当お困りのようでしたので。あなたの古着をお貸ししてます」
「すみません、お邪魔して、服までいただいて──」
挨拶する僕の言葉が終わらないうちにスチャッと剣を差し向けて、その旦那さんは憎憎しげな顔で
「貴様っ、一体何者だ⁉︎ そのこの世ならざる者のような気配は一体!答えろっ、ここに何をしにきた⁉︎」
「あ、あなた一体どうしたの?」
「お前もこっちに来なさい。こいつは──俺たちとは違う生き物だ。いや、動く死体か」
「え? ……ひっ⁉︎」
聖騎士のこれが魔術と呼ばれるものだろうか、僕の身体にあざのように浮かび上がる模様。血の斑。
「何をどうすればこんなおぞましいものになるのか」
奥さんは腰が抜けたようでその場にへたり込んだまま震えている。
「……すみません。僕はこれで失礼します」
もはやここに居ることが、存在が既にダメなのだ。旦那さんの脇を抜けて扉へ──
「おのれ、化け物! 貴様を表に出すわけにはいかん!」
そう言って振り下ろされた剣は、聖なる光を帯びて僕の上半身を斜めに2つに裂いた。地獄から歩いてきて、久しぶりに向けられた優しさもまとめて両断された。
誰かが泣く声がする。死なないで、起きて、どうしてっ、と。
ああ、妻よ。僕は死んだのか? 死ねたのか? やっとそちらへ、君の元にいけるのか……?
まぶたが開く。開いてしまった。相変わらず。
だとすると今も聞こえるこの嗚咽混じりの嘆願は──。
玄関ドアの前で身体を斬られて生き絶える聖騎士と縋りつき泣き喚く女性だ。
一体僕が死んでいる間に何が?
「あ……う……」
声を掛けてあげたくても声が出てこない。
あの聖騎士の攻撃はその性質のせいだろうか、僕の回復を遅らせているようだ。もしかしたらその先に僕の死ぬヒントがあるかも知れない。だがいまはこの女性を宥めてあげたい。
「あ、あう……」
女性は僕に気づき、恐ろしいものを見る目で、
「ば、化け物っ!」
後ずさり、やがて意を決したように、聖騎士の剣を手にして頭を叩き割ってくれた。
次に意識を取り戻した時、その時には既に声も出せるほどになっているのがわかったが、目の前の事実に声は出せなかった。
今度は女性の頭が割られて、その中身を聖騎士にぶちまけて抱きつくようにして死んでいたのだ。
目の前の景色のこのすえた匂いは僕のものか誰のものなのか。出来るのは目を閉じて涙を堪えることだけだった。