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ここまでくれば、闘いにも冒険にも縁のなかった僕にもわかる。
僕は死ねなくて弱くて汚くて臭くて全身が実は血塗れで分かる人には分かるほどに相容れない生き物になっていて、さらにはどういうわけか僕に危害を与えた、もしくは殺した者には同じ結末を与えているのだ。
行商人は外傷はなく、苦しんだ様子で死んでいた。僕に毒薬を試したからだ。
剣士風の鎧兜は細切れになって頭は潰れていた。それもそいつが僕にしたことだ。
聖騎士は僕を一刀のもとに切り捨てた。彼の死に様は同じで、その奥さんもそうだ。
だが散々殺しまくった奴らとこの夫婦では、何故という疑問がある。奴らは相当数僕をいたぶって遊んだのに、この2人は1回だけだ。
それはどんなに考えてもわからない。あの行商人たちが特別何か違ったのか? またはこの2人が何か違ったか……考えても分からない。知らないうちに起こっていることなど。
もしかしたら僕を散々食べた野犬達も今頃は食い散らかされた姿で死んでいるかも知れない。
やがて家の異変に気づいた隣人が訪れ、警備の人間を呼び、家の中は恐慌状態となったが、幸い僕は血塗れの格好で倒れていただけなので、それ以降殺されはしな──
殺された。血塗れの割に傷がないのだ。不審どころではない。オマケにこの辺りでは見かけず、夫婦しか居ないこの家の惨劇の生き残り。
僕が殺されて、誰かが死に、僕は生き返る。また死んで、僕を殺したひとが、いつの間にかその舞台は家の外に移っていて、起き上がる僕を誰かが殺しに来る。
街は酷い有り様となる。そこはもはや死体の広場となってその真ん中にやっと立ち上がった僕がいる。
辺りに散らばる死体はところどころ欠損したようになっているものが多いが、そこに気を取られているわけにはいかない。
もはや恐怖に脚をすくませた人々が遠巻きにこちらを恐れ警戒している中を外へと歩いていく。
もう誰も襲い掛かりはしない。
僕が気づいたような事柄だ。彼らも気づいている。
返り討ちにあう。僕が何もしなくても。
そして誰かが言う。あれは呪いの死人形なのだと。
僕は(残念……呪いではないそうだよ)と諦観の中でひとり呟く。
この街から、西へ。
夜が明けはじめて、日の出になりその方角が大体分かったので西へと歩き進める。
この身体は痛みも苦しみもあるが、疲れは不思議とない。その代わり筋力も低く、歩く速さは年寄り並みだ。
人と出会うのは悲劇しか生まない。僕は街道は使わずにただただ西へと進む。荒れ地を転がり、森をはいずり、その道中で殺されて食われても死ねない。たまに生き返った時に僕を食べてた野生動物の無残な死骸があって、推測がいよいよ確証に変わったりもした。
ひと月は歩いただろうか?
とはいえこのスピードでひと月なぞ、大した距離でもなかったのかもしれないが、殺され食べられ生きながらえてする道のりの総距離も日数もまともに覚えているはずもない。冬は来ていないからそれくらいのものだとしかわからない。