テラーノベル
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雨がザーザーと大きな音を鳴らし、
静かな図書館の中は、その音で反響していた。
会計台の奥のドアから、チャクチャク、バリボリと咀嚼音が聞こえる。
そのドア下の隙間から見えるのは、
赤い、血。
1.好奇心旺盛な名探偵
2001年9月。今宵、青年2人が向かったのは古びた図書館だった。
とある依頼を解決するため、この森に囲まれた築50年近い図書館に足を運ばせていた。
倉森「あ〜あ、ここはもう取り壊すのも難しそうだね〜」
倉森悠太(くらもりゆうた)という男は、持ち前の癖っ毛な黒髪をいじりながら呑気に言った。
深々と被ったハット帽や、その長いコートは明らかに探偵であることを主張している。
高身な背丈と、太めの眉は、彼の実際の年齢よりも上だと思わせるようだった。
赤山「森に囲まれていて業者も来れないでしょうし、何よりこんな傾斜な土地誰も買わないですもんね。」
赤山沙月(あかやまさつき)という男は、成人の割に小柄で、その幼く女々しい顔や、鼻の上のそばかす、人参のような赤い髪は、童話『赤毛のアン』を連想させるような容姿だった。
しかし、性格は真逆と言っていいほど人見知りで弱気な声をしている。
赤山「それで…」弱々しく話を切り出した。
赤山「この図書館、本当に入るんですか?倉森先生。」
倉森「ふん、こんなに興味深い物を目の前にして…誰が入らないというんだい?」
ニヤニヤと目を唆らせている。
倉森「それともなんだ、この建物が怖いのかい?」
赤山「い、いいえ?別に建物なんか怖くありません!ただ…」赤山は目を逸らす。
赤山「…なんか、出そうじゃないですか?」
倉森「出そうって、何が?」
赤山「……幽霊」
倉森「ほ〜幽霊か!なら尚更興味深いではないか〜!よし、ではお邪魔させていただこう! 」
そう言うと、倉森は赤山をおいてすぐさま図書館の大扉のノブに手をかけた。
赤山「ちょ、ちょっと!置いてかないでくださいよ!?」
勢いよく扉を開けた先は、予想通り古びていて使い物にならなさそうな本や本棚らが見られた。
図書館は左右対称な構造をしており、本棚の位置も左右対称になっている。
中央の広場には螺旋階段があり、2階に続いていた。天井はガラス張りになっており、
外の天気が伺えた。今は雲ひとつない快晴だ。
探偵と助手は、図書館に入ってすぐ、その違和感に気がついた。
倉森「…濡れているな。」
その図書館はそこらじゅうが濡れており、ジメジメとした空間になっていたのだ。
ポタポタと遠くから水が滴る音も聞こえ、その違和感は確信に近づいている。
赤山「変ですね、天井があって雨は降らないはずなのに…」
倉森「いいや、それだけじゃないな。」
倉森は奥へと足を運ばせた。 そして近くの本棚の本を手に取った。
倉森「びっしり濡れているな…酷いもんだ。」
赤山「あ、でもこれだけ古い建物ですし、雨漏りならいくらでもあるんじゃないですか?」
しかし、倉森は納得してない顔だった。雨漏りでここまで酷く濡れる物なのだろうか。
倉森はどんどん奥へと足を進めていった。赤山も黙って小走りで着いていく。
図書館は、中央の円形のホールから、左右対称に四角い部屋で囲まれていた。
入り口手前には、会計台や枯れた植物、比較的開けた本棚たち、人を出迎えるようにラグが置かれていた。本を手に取ると、物語や小説物が多い。どれも濡れている。
倉森達が気になったのは、それより奥の物だ。
赤山「絵画がたくさんありますね…」
奥の部屋に続く廊下には、たくさんの絵画が飾られていた。見たところ全て西洋画だが、一般人が知っているような有名な絵画は見当たらなかった。これらも全て濡れている。
一番奥の部屋に行くと、人1人しか通れないようなほど本棚がびっしりと並んでいた。本を手に取ると、堅苦しい昔の政治の話や辞書が多い。これまた全て濡れている。
倉森「面白いなぁ…」
倉森は、近くの濡れた椅子に上着を敷いて座り、 またニヤニヤと目を唆らせていた。
赤山「気味が悪いですよ…いつまでここにいる気ですか?」呆れた声で、また弱々しく話す。
倉森「よし、決めたぞ!」指をパチンと鳴らし、立ち上がって言った。
倉森「この謎を解くため、これからここに泊まることにしよう!」
赤山は少し固まった。その後すぐ目を見開いて大声で反対した。
赤山「はあぁぁ?!む、無理です嫌ですお断りします!こんな濡れた場所で泊まるとか、
この前の迷い猫探しのために1週間路上生活した時くらい嫌です!」
倉森「なんだよ、あの時だって楽しかったじゃないか!」
赤山「先生は楽しかったでしょうね!?だってほとんど猫を追いかけてたのは僕だったんですから!」赤山は眉間に皺を寄せ、倉森を睨んだ。
倉森「そんなに嫌なら、俺の弟子はやめるんだな。」ニヤリと笑みを浮かべて言った。
赤山「卑怯ですよ!」
倉森は冗談のように見えて、実際にやってみせるおとなげのない男だ。赤山はそれを知っていたので、中々言い返しにくい。
しばらく睨み合った後、赤山は大きなため息を一つつき、「せめて乾いた部屋で寝泊まりさせてくださいよ!」と、倉森の提案を承諾した。
倉森は手を握りしめて「っしゃ!」とまたおとなげのない声をあげた。
倉森「それでは、すぐさま推理に取り掛かろうか!この倉森探偵に解けない謎はない!
というわけで 赤山くん、数日分のご飯の買い出しに行きたまえ〜!」
弟子と言いつつ、早速雑用を押し付けている。
赤山は「まぁここから出られるのなら…」と多少納得して、図書館を出ていった。
倉森は中央のホールに戻ってみた。螺旋階段を登ろうとすると、ギィギィと木製の音が鳴っていた。しかし、濡れているせいか音が少し小さく、ホール内にも響いていないような気がする。
慎重に階段を登り、2階の様子を見ると、目を疑うものがあった。
倉森「…写真?」
手のひらほどの小さなサイズで、画質が荒いが、カラーがはっきりしている。高い山の写真だ。
しかし、それはおかしいのだ。
倉森「時代が違うな…」
築50年以上のこの図書館。ここが使われなくなったのは、作られてから間もなかったという。
理由として、山の上の傾斜なところに建てられたため、通う客がとても少なかった。それに森には獣が出るため、危険区域も近く通いづらかったのだ。
そして、この写真は「写ルンです」という1986年に発売され大ヒットとなった小型カメラで撮られ現像された物だった。世代だった倉森はすぐに気がつけたのだ。
どうして、古くて15年前の写真が、50年近く前に使われなくなったこの図書館に飾ってあるのか?
図書館全体が濡れているのに関係があるのだろうか?
あの廊下にあったたくさんの絵画にも関係があるのだろうか?
なぜここで…
倉森は「はっ!」っと息を漏らし、腕時計を見る。気がつけば、赤山が買い出しに出てから30分も経っていた。ここから店まで15分。往復30分として、買い出し時間はおよそ15分としたら、赤山が帰ってくるまであと15分だ。
倉森「先に謎を解いて赤山くんに自慢してやろうと思っていたが、時間が足りないな…」
相変わらずのおとなげない考えである。
少し2階の周りを徘徊した後、倉森はまたギィギィと階段を降り、一階の入り口前に戻って赤山の帰りを待った。
5分ほど経って、ドアが開く音がした。
赤山「ただいま戻りました…」赤山の声は息切れ気味で、汗も相当かいていた。
倉森「そんなに急いで買ってきてくれたのかい?嬉しいけど、時間は有り余ってるよ。」
赤山は息を切らしながら答えた。
赤山「違うんですよ…!さっき…森の危険区域からガサガサ音が聞こえて!熊や猪じゃないかって怖くなって走ってきたんです!」その足は生まれたての子鹿のように震えていた。
倉森「走ったらダメだろう!音で場所がバレて襲われるかもしれないじゃないか!」
赤山「じゃあ次の買い出しは倉森先生が行ってくださいよ!僕だって推理したいし…」
倉森「仕方のない子だ…いいだろう。買い出しは交代制で行おうか。」
2人は、この濡れた図書館について推理していた。
時刻は午前11時32分。片手にパンを持って食べながらお互いの考えを話し合う。
赤山「やっぱり雨漏りじゃないですかね?」
倉森「それはないだろう。赤山くん、ここ最近雨が降った記録はあるのかい?」
赤山「…ないですね。」
倉森「だろう?極地的に降ったとしても、あたりの森はジメジメせず乾燥していた。
やはり雨ではない、他の水の出所があるはずだ!」倉森は自信満々に言い放ち、パンを食い切った。
赤山「じゃあ一体なんだっていうんです?ここは山の上だから海はないでしょうし…川だって反対の裏山にしかないでしょう。水道も、これだけ古かったら流石に止められてますよ。」
倉森「確かに、君の言ったすべての水の出所の可能性はないな。」
倉森「だとすれば!」大声が図書館内を反響した。
倉森「この際、我々の推理はファンタジーだって構いやしないさ!おそらく 水は、
“図書館内”で作られている!」
赤山「正気ですか?」本当に心配な目で倉森を見た
赤山「倉森先生、あなた元理科の教師ですよね?そんな図書館内でこんな大量の水が作られるなんて、非科学的だってわかるでしょう!」
倉森「推測ってのは大体でいいんだ大体で〜!もちろん、この謎をただのファンタジーで終わらせる気はないよ。この際、仮定は大きく外れて出てもいい!と俺は言っているんだ。」
確かに倉森の言っていることは間違いではない。推測は、外れた時にこそヒントを得る時があるのだ。ただ、赤山はファンタジーと繋げることに少々納得いかない顔をしていた。
赤山「それで…先生は何か情報得られました?僕が買い出しに行っている時。」
倉森は「あ、そうだ!」と手を鳴らして思い出す。
倉森「先ほど2階を見て回ってたのだよ!その時、不思議なものを手に入れてね。」
と言って、ポケットからハンカチで包まれた写真を取り出し、赤山に見せた。
赤山「ここの山の写真ですか?」
倉森「おそらくな。」
倉森「ただ、重要なのは写真の場所じゃない。」
倉森は、先ほどの自分の考えを全て話しきった。
赤山「なるほど…閉館した後にも、何者かにこの図書館は使われていたってわけですね。」
倉森「ああそうさ。きっと閉館後図書館が売りに出されて、それを気に入った客が買い取ったのだろう。」
赤山「それはおかしいですよ。」きっぱりと言い放った。
倉森は片方の眉をあげて、疑問を顔に浮かべる。
赤山「だって、僕らがここに入るために役所にサインした時、名称は“図書館”でした。もし誰かが買っていた場合、空き家、もしくは私有地になるはずですよ。」
倉森「ならば…その何者かは役所に無断でその図書館を使っていたと…」
赤山「もしそうなら、廊下に飾ってある絵画や、この写真がある理由もわかります。
保管場所として置いといたんですよきっと!」
倉森「じゃあ…なぜこの図書館は濡れているんだ?」
赤山は顔をひきつった
赤山「え…い、いや、まだそこまでは辿り着かないでしょう…?」
倉森「俺は別にこの家の持ち主に興味はない。ただ、どうやって図書館全体を濡らすことができたのかが知りたいのだ!」目をキラキラさせて言った。
赤山は「はぁ…」とため息をつき、改めてこの人は理系なのだと心底呆れた。
文系な自分とは考え方が違うのだ。倉森先生は、「濡れている理由」ではなく「どうやって濡らしたのか」という方法しか興味がないのだ。正直、探偵向きではないとも思う。
でも、僕はそんな人を師匠として尊敬している。
その好奇心旺盛で、おとなげのない考えには救われるものもあった。
赤山は、ふと昔の思い出に浸っていた。
一方倉森は、そんなこと気にもせず本をたくさん手に取って見ていた。
森の奥から、大きな影が見えた。 それは猪でもなく、熊でもない。
体長およそ3mを超える巨大なバケモノが、図書館を見つめていた。
2人の探偵は、そんなこと、気づきもしなかった。
ー1話・終ー
〈資料〉
コメント
2件
めっちゃ気になるところで終わるじゃないですか…!!😭資料付きありがたい🙏✨相変わらず茨さんは比喩表現が上手いですね〜倉森さんは好奇心旺盛なのかな?わたしだったら泊まるどころか絶対入らない🙃かと言ってそんな師匠についてく赤山くんも凄い…次回も楽しみにしてます!👍🏻
めちゃくちゃ面白すぎますね!!というか倉森さんイケメンすぎじゃないですか!!?赤山さんも可愛いですし!!良いですね!!面白くなってきました!!自分、こういう系めちゃくちゃ好きなんですよ!!最後のバケモノってめちゃくちゃ気になりますね…。そして!!図書館の構図を載せていただいたことにより更に分かりやすくなりました!!!ありがとうございます!!次も楽しみです!!お体に気をつけて頑張ってください!!!