プロローグ 夕暮れの中で
窓から夕方を知らせるように、オレンジ色の光が差し込んでいる。
教室には梨柚(りゆ)以外、誰もいない。
梨柚は、自分の席の椅子に置かれたカバンをじっと見つめている。
梨柚のカバンは、ぐちゃぐちゃだった。
午前から具合を悪くし、保健室で休んだ後の放課後、教室に戻ってきたところだった。
カバンには、給食のスープがなみなみと注ぎ込まれ、中にあった荷物は床にぶちまけられていた。
チャックに着いているうさぎのぬいぐるみキーホルダーは、お腹が引き裂かれ、綿が飛び出ている。
梨柚は、涙を流すことなく、怒りを表すことも無く、ただただ、カバンを見つめる。
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どうしてこんなことをされるようになったのか、梨柚にも分からなかった。
これが世の中で言う、「いじめ」なのかどうかも、分からなかった。
この嫌がらせの主犯格は、クラスの中心的存在である、恋歌(れんか)だ。
桃井 恋歌(ももい れんか)。
クラスの中心で、いつも周りには決まって数人の女子がいた。大人しい性格の同級生達を「陰キャ」と言ってバカにし、まるで自分たちは「陽キャ」であるかのように振る舞う。そんな恋歌とその周りの子達を、梨柚はいつも遠巻きに眺めていた。「バカだなぁ」と。
といっても梨柚は、同じクラスでありながら、恋歌と関わりがなかった。梨柚は、恋歌達にとって、自分達には関係ない、眼中にもない「陰キャ」。それだけだった。
それだけだった、はずなのに。
それなのに、どうしてだろう。
いつしか梨柚は、クラスの中心である彼女から嫌われ、「いじめ」を受けるようになった。
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