テラーノベル
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翌週、「眩しい箱」は大きな説明会を開くと発表した。会場は箱庭座の前室。照明も音響も入れて、未来の透羽市を体験してもらうのだという。
「体験って言い方、嫌だな」
エリアが言う。
「もう決まってることを、選ばせるふりで飲ませる時の言い方」
「だから潜る」
スレンは即答した。
その日、彼が選んだのは華やかな女物の装いだった。細いヒール、揺れる耳飾り、やわらかく巻いた髪。見慣れているはずの仲間たちでさえ、一瞬まばたきを忘れる。
「口、閉じて」
スレンはエリアに言った。
「開いてる」
箱庭座の前室は、甘い香りと音楽で満ちていた。未来図の映像が壁へ映され、来場者には小さな焼き菓子が配られる。スレンは笑顔で受け取りながら、係員の動きを観察した。
説明が終わった後、案内されたのは個別相談の机だった。
「現在のお困りごとを、より良い未来のために整理しましょう」
その文句と一緒に出された紙は、見た目こそ丁寧だが、中身は黒い名刺の相談票とほとんど同じだった。借入の有無。相続の不安。後継ぎの有無。家族関係。恋人のことまで、するすると書かせる仕組みになっている。
さらに別室では、借金のある店へだけ別の資料が渡されていた。立ち退き後の出店支援と書かれているが、実際は高い手数料つきの融資案内だ。
スレンは帰り際、わざと少し酔ったふりをしてテオハリへ寄りかかった。
「やだ、親切。みんな救う気なんですね」
テオハリは得意そうに笑う。
「もちろんです。見えない明日を、見える形にして差し上げるのが我々の役目ですから」
その時、彼の胸ポケットから、鍵札の付いた控え票がのぞいた。倉庫番号と相談票の仕分け記号。
スレンは笑顔のまま目だけで覚える。
甘い匂いのする場所ほど、吐き気のするものが隠れている。
戻ってきたスレンの第一声は、それだった。
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