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#勧善懲悪
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その夜、ンドレスは眠りが浅かった。
眩しい箱の仮眠室の狭いベッド。薄い毛布。窓の外を通る車の光。まどろみかけるたびに、遠いはずの体育館の匂いが混じってくる。
夢だと分かった時には、もう中学の卒業式の壇上横に立っていた。
床は磨かれ、花の匂いがして、椅子の引かれる音がやけに響く。若い日のサペが、封筒を握りしめたまま人混みを見ている。少し離れたところでは、エリアが友だちに笑っていた。
あの日の自分は、そこで立ち止まった。
サペがエリアを追う。封筒を持っている。胸の内では勝手に答えが出ていた。
――ああ、そういうことか。
――自分はもう、工房にも二人の間にも入れない。
夢の中のンドレスは、その時の自分へ声をかけようとした。
待て。聞け。確かめろ。
けれど、若い自分は振り返らない。
そのまま体育館の裏口へ向かい、外靴のまま走り出す。止める相手も、呼ぶ相手もいない。即断即決が得意だと笑われていたその足で、いちばん確かめなければいけないことから逃げる。
場面が変わる。
工房の裏。祖父が何か言っている。サペが探している。エリアが息を切らしている。なのに自分だけ、もう見えない場所まで行っている。
そこで、夢の奥から声がした。
『石を戻せ』
片目のないからくり人形が、舞台の上からこちらを見ている。赤い光はもう片方の目に宿っていた。
ンドレスは飛び起きた。
喉がからからだった。暗い天井を見上げたまま、しばらく動けない。
勘違いした。
確認しなかった。
その結果を、何年も人のせいにしていた。
窓の外は、夜明け前のいちばん青い時間だった。
ンドレスは顔を覆う。笑いたいのか泣きたいのか、自分でも分からない息が漏れた。
夢はただの夢じゃない。
忘れたふりをした順番まで、きっちり返してくる。