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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
携帯販売員の仕事の後、楓子さんから電話が来た。
「……天国美。今夜、ちょっと付き合ってくれない?」
「……はいっ!!」
忙しくても、大好きな人とは時間を作ってでも会いたくなるものだ。
私はお姉ちゃんに
「楓子さんとデートしてきます!!」
とLINEを送り、楓子さんとの待ち合わせ場所へと向かった。
「行こっか、天国美」
「はいっ」
いつものタイトな黒衣ではなく、夜の街に馴染むシックなドレスを纏った楓子さんに、私の胸がトクンと跳ねる。
連れて行かれたのは、ビルの最上階にある看板のない隠れ家バーだった。重厚な扉を開けると、ほの暗い店内にジャズが流れ、窓の向こうには宝石を散りばめたような夜景が広がっている。
お洒落な女性バーテンダーが琥珀色のカクテルをグラスに注いでいる。
「かっこいい……!!」
「喜んでもらえてよかった。さ、乾杯しよ」
「乾杯!!」
琥珀色のカクテルがチリンと音を立てる。グラスを傾けながら、私は前々から気になっていた疑問を、思い切って口にしてみた。
「ねぇ、楓子さん。楓子さんはなんで、はじめて会ったばかりの私と付き合ってくれたんですか? 」
楓子さんはグラスを回し、氷の音を響かせながら、遠い目をして微笑んだ。
「覚えてる? 私の携帯が完全に壊れて、魔法でもどうにもならなくて、困っていた時のこと」
「覚えてます、楓子さんじーっとスマホ見つめて、『スマホってどれも同じに見えるなっ』て」
私が当時のモノマネをすると、楓子さんがくすりと笑う。
「あの時、本当に絶望していたんだ。携帯が動かないってことは、そこに詰まっていた大切な思い出も全部まとめて消えちゃったような気がしてさ」
楓子さんはグラスを置き、天国美の目をじっと見つめる。
「それをね、天国美が一生懸命、データの復元を手伝ってくれたでしょ? 『ほら、元通りですよ!』って、笑って差し出してくれた。……それが、本当に嬉しかった。それで君の告白をOKしたんだ」
初めて私達が出会った日の光景が鮮烈に蘇る。
あの時、データを復元された携帯の画面に映っていたのは、遊園地で楽しそうに笑う、楓子さん自身の写真だった。
それを見た瞬間、楓子さんがスマホを胸に強く強く抱きしめたのだ。そして、絞り出すように天国美にお礼を言った。
(どうして、自分自身の写真を見て、あんなに嬉そうだったんだろう……?)
少し不思議だったけど私はあえてそれを聞かなかった。
しんみりした空気を振り払うように、楓子さんが悪戯っぽく笑う。
「それにほら、天国美といると退屈しないでしょ? 」
「どうも、おもしれー女筆頭です」
「ふふ、そうだね」
楓子さんが愛しそうに笑う。
…….渾身のボケのつもりだったのに、恥ずかしい。照れ隠しでカクテルを一気飲みした。
気がつけば、すっかり夜も更けていた。
少し飲みすぎて足元がふらつく私を、楓子さんは優しく支える。
「さぁ、帰ろっか」
パチン、と楓子さんが指を鳴らすと、闇の中から一本の漆黒の箒が現れる。
私達はそれに跨り、夜の街から一気に空へと舞い上がる。
「わあぁっ……! すごい、風が気持ちいい……!」
「しっかりつかまっててね」
「はい!!」
街の景色がどんどん小さくなる。
眼下に広がる街の灯りが、まるで天の川みたい。
私は、前を飛ぶ楓子さんの細い腰にしがみつく。
楓子さんのお香みたいないい匂いと、夜風の冷たさが心地よく混ざり合う。
恋人の背中にしがみつき、誰もいない夜空を二人占めして飛ぶ。
箒に乗って夜空を満喫できるのは黒魔術師と付き合ったものの特権なのかも。
私はしばらく幸せな浮遊感に身を委ねていた。
空に浮かぶ月を見て、ふと、おねえちゃんのことを思う。
「ねぇ、楓子さん。……おねぇちゃんは、本当に助かるんですか?」
すがるように、その細い腰を強く抱きしめる。
「……少なくとも、前進はしているよ」
楓子の声は、夜の静寂に溶けるように優しかった。
「ネガティブだった地獄子ちゃんは、少しずつ自分を肯定し始めている。魔力の操作も上手くなった。……『真実の愛』を見つけるための準備は、少しずつ整って来ているよ」
「でも、おねぇちゃんの呪いはどんどん進行してます……!!」
「こないだなんて、足が幽霊みたいに透けて……。一緒にファミレスに行ったのに、店員さんも周りの人も、おねぇちゃんがそこにいることに気づかなかったんです」
だんだん、だんだん、世界からおねぇちゃんが消えていく。
「私……おねぇちゃんのために、何にもしてあげられない……っ!!」
溢れ出た涙が、楓子さんの背中を濡らしていく。
「……そんなことないよ」
「ヘブミちゃんの存在は、間違いなく地獄子ちゃんの支えになっている。まだ1ヶ月以上ある。きっと呪いを解く方法が見つかるさ」
「……やっぱり、真実の愛なんて、見つける必要ないんじゃないですか?」
私は、おねえちゃんや、楓子さんが薄々気づいていてそれでも目を反らしている事実を突きつける。
「私が死んだら、おねえちゃんは助かります。楓子さん、お願いします。もしタイムリミットがあと二週間を切って、おねぇちゃんの呪いが解けなかったら……どうか、私のことを殺してください」
「私、殺されるなら……楓子さんがいいです」
楓子は、前を向いたまま振り返らない。
「……そんな寂しいこと、言うなよ」
「君は、私の恋人なんだぞ」
その言葉に、私の胸が締め付けられるように熱くなる。
――私は、なんて幸せ者なんだろう。
こんな風に、自分の存在を本気で大切に思ってくれる恋人がいて、アパートには、大好きなおねぇちゃんがいる。
化け物の私には似つかわしくないくらい幸せだ。
「……君たち姉妹は、本当に似ているね」
楓子がぽつりと呟く。
「大切な人のためなら、平気で自分を投げ出せてしまうところとか」
箒がゆっくりと高度を下げ、いつもの寂れたアパートの屋根が見えてくる。
「でもね。君が地獄子ちゃんを大切に思っているのと同じくらい、私はヘブミちゃんが大切なんだ。まだ時間は残っている。……とりあえず、今日はおやすみ」
「……はい」
優しく地上に降ろされ、私は小さく手を振って階段を駆け下りた。
ガチャリ、と玄関のドアを開ける。
おねぇちゃんはもう眠ってしまったかな?
リビングに入ると、いつものようにジャージ姿の地獄子が、暗い部屋でスマホの画面を必死に見つめていた。画面の光に照らされた彼女の呟きが、静かな部屋に響く。
「……不老不死になるには、都道府県を三つ消滅させなきゃなのか……。じゃあ無理じゃん……なにか他にいい方法ないかな……..」
真剣に黒魔術のオカルトサイトをスクロールしながら、途方に暮れている不器用な横顔。
私のために、自分の命のために、必死で泥臭くあがいているおねぇちゃん。
それを見ていると愛しくて、愛しくて、胸がいっぱいになった。
「ただいま、おねぇちゃん!!」
靴を投げ捨てるように脱ぎ捨て、私はお姉ちゃんの背中に飛びかかった。
「うきゃぁぁっ!?!?」
おねえちゃんがカエルの潰れたような悲鳴をあげる。
「しんぱいしらいでくだしゃい!! おねぇちゃんはぜったい、ぜーったい!! 私が助けますからぁ!!」
「何あんた!? 酔っ払ってんの!?」
「うへへ、おねぇちゃぁん……」
「ちょっと、重いってば!!は•な•れ•ろー!!」
うっとうしそうにしながらも、おねえちゃんは決して落としはしない。
「まったくもー。おねぇちゃんはツンデレですねー」
「いいから早く離れなさい!!爆発してもしらないわよっ!?」
拒絶の言葉とは裏腹に、その背中は驚くほど温かい。
呪いなんかにこの温もりを奪われるわけにはいかない。
――タイムリミットまで、あと37日。
コメント
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うわぁ…第15話、めっちゃ良かった…!!😭💕 楓子さんとのデートシーン、バーの雰囲気とか箒で夜空飛ぶとこ、もう完全にドラマチックすぎて胸がギュッてなった…! 特に「私を♡♡♡てください」って覚悟を伝えるシーン、ヘブミちゃんの愛情の深さが痛いほど伝わってきて泣きそうになったよ…😢 でも最後の地獄子ちゃんが「不老不死…都道府県三つ消滅…」って真剣に調べてるギャップが可愛すぎて、そこに飛びつくヘブミちゃんの「ぜったい助けます!」がもう尊すぎて言葉にならない…!! 姉妹愛、尊すぎる…!! 次回が待ち遠しいよ…✨