テラーノベル
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#和風ファンタジー
#ダークファンタジー
軋む扉の音とともに、空気が切り替わる。
店内は静かだった。
客は数人。誰もが視線を逸らし、関わらないふりをしている。
店主は無言で湯を沸かし、茶を用意した。
奥の席。
アルドと騎士団が向かい合う。
湯気が、ゆっくりと立ち上る。
カイルが口を開いた。
「まずは自己紹介といこうじゃない」
短く顎で合図する。
「王国白銀騎士団、団長。カイル・レオンハルトだ」
隣の女性が静かに続く。
「副団長、リシア・エルフェルトと申します。」
名乗りは短い。だが、重い。
アルドは湯気の向こうで、わずかに口元を緩めた。
「流石に耳には入ってるよ」
「各国で一、二を争う王国騎士団、ってな」
カイルは表情を変えない。
「過大評価だ」
一拍。
「……で、君は何者だ」
リシアがまっすぐに問う。
アルドは茶を一口。
「ただの旅人だよ」
即答。
湯気の向こうで、リシアの目がわずかに細くなる。
(……違う)
カイルの視線もまた、わずかに鋭くなる。
「君は嘘が得意ではないようだな」
間を置く。
「……まあいい」
カイルは湯呑みに手をかけた。
「本題に入ろう」
静かな声。
だが、場を支配する響き。
我々は本来、魔王討伐のために動いていた」
一拍。
「だが道中で――別の“厄介事”を掴んだ」
視線をわずかに動かす。
「この町だ」
「ここが“冒険者狩り”の拠点になっている」
アルドは何も言わない。
ただ、指先で湯呑みを軽く回す。
カイルは続ける。
「規模は数十。連携は良好。統率も取れている」
「単なる野盗ではない」
「……裏で糸を引く者がいる」
リシアが補足する。
「複数のパーティを餌にして、疲弊したところを刈り取る手口」
「最近の失踪者の多くが、この周辺で途絶えています」
セラが静かに言う。
「魔物より厄介ね」
ガルドが鼻で笑う。
「だから先に潰す、ってわけだ」
ドランは短く頷く。
「背後は空けない」
ユナが小さく肩をすくめる。
「で、あなた」
アルドを見る。
「さっきの外のやつ、全部あなたでしょ?」
沈黙。
アルドは茶を置いた。
「さあな」
曖昧に濁す。
だが――
リシアは視線を外さない。
(……魔力の“余熱”が残っている)
リシアは自分の武器の持ち手に掛けていた
「リシア…」
「警戒を解け。今は交渉の時間だ。」
カイルはリシアを落ち着けた。
「申し訳ありません…」
「団長」
小さく呼ぶ。
カイルはそれだけで察した。
空気が、ほんの少しだけ引き締まる。
カイルは視線をアルドに戻す。
「単刀直入に聞こう」
「君は、何をしにこの町へ来た」
間。
湯気が、ゆらりと二人の間を横切る。
アルドはわずかに肩をすくめた。
「情報集めだよ」
「……例の魔王の“噂”についてな」
一瞬。
店内の温度が下がった気がした。
リシアの瞳が鋭く光る。
「――やはり」
小さく、確信を漏らす。
カイルはゆっくりと頷いた。
「利害は一致している、か」
そして、静かに告げる。
「提案だ」
「この町の件、我々と利害を共有しないか」
「冒険者狩りは我々が処理する」
「その見返りに――」
一拍。
「“魔王の動向”について、こちらが把握している情報を提供しよう」
沈黙。
アルドは湯呑みを見つめる。
茶の表面が、わずかに揺れた。
(……悪くない)
だが。
ほんのわずかに、口元が歪む。
「条件が一つある」
顔を上げる。
視線が、真っ直ぐカイルを捉える。
「冒険者狩りの件、俺にも混ぜてくれないか」
騎士団の空気がわずかに揺れる。
ガルドが口元を歪める。
「は?正気か?」
カイルはじっとアルドを見据えた。
「理由は?」
アルドは肩をすくめる。
「情報が欲しいだけだ」
「ついでに、ああいう連中は気に入らない」
軽い口調。
だが、嘘ではない響き。
沈黙。
やがてカイルが口を開く。
「いいだろう」
「ただし――」
その瞬間。
アルドが先に口を挟む。
「俺のやり方に、口出しはするな」
空気が、ピリッと張る。
リシアが即座に反応する。
「それは――」
だがカイルが手で制する。
視線を外さず、静かに言う。
「……度を越えない限りは認めよう」
アルドは小さく笑う。
「十分だ」
二人の視線が交差する。
湯気が、すっと消える。
――仮初の協力関係が、成立した。
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