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実際、見かけはすげー可愛い。
小さな身体は小動物みたいだし、白い肌につやつやの黒髪と大きな目がきれいで、清楚な感じがした。
派手に着飾ってキャーキャー騒ぐやつらとくらべると地味で目立たなかったけれど、そういうやつらと明らかにちがったのは、小さな身体に似合わず、何品ものデザートをぺろりとを平らげてしまうところだった。
その食いっぷりから『ファイターちゃん』なんて店の連中から愛称されてるのも面白くて気になってちょこちょこ話しかければ、おずおずと返してくれるようになった。
新作を紹介すると、いつも真っ先に注文してくれて、美味しいとほめてくれたり、時にはアドバイスをくれていい刺激を与えてくれたり…。
いつもおどおどして言葉は足りなかったけれど、その話しぶりから「いい子なんだな」って思って。
いつしか、「次はいつ来るんだろう」って思うようになった。
そうしたら、あいつからやって来てくれたんだ。
しかも、一緒に働きたいって。
今思えばバカだった。
あいつの志望動機が、いかに自分が自惚れていたかということを嫌というほどわからせてくれた。
『あなたのケーキが好きなんです』
は?
俺じゃなくて、ケーキが目的??
ケーキをほめられてうれしいはずなのに、さすがにこの時だけはちがった。
この女…食い意地張り過ぎだろ…。
てか、とんだ勘ちがい…大恥かいた…。
ひとりで盛り上がって自惚れ発言するような間抜けをしなくてすんだけれど…鼻息荒くしてあいつに迫って、すっげぇバカじゃねぇかっ…!!
その日から、あいつを見るたびにイライラした。
ムカムカするのと同時に、ちくりと胸が痛む。
なんなんだ。このわけのわからない感覚は。
ムカつく…。
きっと指導係なんてやっているから、あいつのグズさが腹立たせるんだ、と思った。
指導係なんてやめてやる、って何度思ったか。
でも、できなかった。
見るのもムカつくのに、でも目の届かないところにおくのも嫌で、俺以外のやつがあいつに世話を焼くのにもムカついた。
拓弥も暁兄もあいつのこと気に入っている。
彼女にしたきゃしろよ。あんなグズどこがいいんだか知らねぇけど。
って思っても、どうしても手放せなくて…。
こんなわけのわからない自分が嫌で、余計に腹が立ってさらにムカついて。
やり場のない怒りをあいつにむけて、ついキツイことを言ってしまう。
やめちまえなんて、本当はまったく思っていないのに。
どうしてだ。
どうしてなんだ…。
ああもう、調子狂うんだよ…。
なんなんだ、この気持ちは…。
※
「ねぇ晴友―。お願いがあるんだけどー」
学校から戻ってホールに入ると、姉貴がキッチンから出てきた。
「なんだよ…」
この気持ち悪ぃ猫なで声…嫌な予感。
絶対、俺によからぬことを頼みたいにちがいない。
「言っとくけど、またテレビの取材だったら、お断りだからな」
「ぎくぅ」
…わっかりやす。
「そ、そこをなんとか…」
「はーっ!?前も『これが最後』って言っただろーが!」
「どうしても!って頼まれたんだもんっ。店の宣伝になると思えば断れないし…。
ねーお願いよ、晴友ぉ」
ベイエリアのここら近辺は、観光スポットやデートスポットとして人気で、レストランやカフェが多く並ぶ。
その中でもうちは人気店としてけっこう有名で、雑誌にもよく載るし、テレビの取材も珍しくなく、けっこうな時間幅をとって紹介されるんだけど…。
「どーも私って、目立つことが苦手で…。こう見えても、恥ずかしがり屋の内気な美女だから…」
許可したオーナー本人がこういうヤツなもんだから、
「こういうのはあんたの方が得意だし、宣伝効果も抜群だからさ、お願いしたいのよねッ」
面倒な役回りを押しつけられる…。
「嫌だ。オーナーなんだから、たまには責任もって出ろよ」
「だめだめだめーっ!そ、それに私、これから外出しなくちゃならなくてぇ」
はぁ?
こいつ…わざと予定を入れたな…。いい歳したおばはんがすることじゃねぇぞ、ったく。
「今回は拓弥に任せろよ。あいつの方が適任だと思うけど」
そう、拓弥なら適任だ。
きっと、ノリノリでやたらにカメラ目線なお愛想振りまきアピールをやるに決まっている。
「うーん、拓弥くんは今日は休みなのよねぇ。
それに…拓弥くんにお願いしたら、この前すごいことになったから…」
たしかに…。
前回拓弥に任せたら、やたらにキザな宣伝をしたせいで女の客が殺到して、ひどい目に遭ったんだった。
売り上げはすごかったが…ホールはてんてこ舞いでキッチンは戦場、女たちはギャーギャーかまってきてうるさいわ、仕事の邪魔をされるわ…。
あんな大騒ぎは、もうこりごりだ…。
「その点、晴友はちょうどいいのよねー。ヘンに煽らないけど、あんた目当ての女のお客さまは確実に呼び込めるから、穏やかーに混んで、かくじつーに売り上げアップするし」
「私よりずっとずーっと適任なのよね!」と手をモミモミしているあたり…こいつ、絶対恥ずかしかってるんじゃなくて計算した上で言っているな…。
売り上げは伸ばしたいけど楽したい、って守銭奴根性丸出しじゃねぇか。
「ヤだね。俺はやらねぇよ。前も言ったろ、これが最後だって」
「えーそんなぁ!だって今日は頼めるホールったらあんたしかいなくてぇ」
「あっそ」
「美南ちゃんも今日は休みだし、暁くんもキッチンにいてもらわなきゃだし…。日菜ちゃんは今日入ってるけど…でもまだ任せられないしぃ」
日菜?
へぇ…今日日菜も来るのか。
「まだ全体的に不慣れな日菜ちゃんに今月限定メニューとか紹介させるのかわいそうでしょ?となれば、やっぱり頼めるのは晴友しかいないのよ」
「まぁ、そうだな」
と、うなづいた俺だけど、内心、口元がゆがむのをこらえていた。
意地の悪い考えが、生まれたからだ。
「わかったよ。やってやるよ」
「ほんとぉ!?さっすが晴友、ありがとうっ!」
なにも知らない姉貴は大喜びだ。