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「ところで、鬼キヨよ、おめぇどう思う?」
親分の顔付きが変わった。
「どう思うとは?」
「おお、神宮造営のことよ」
もったいなくも、と、前置きを忘れず、親分は、今、どうして、国を挙げての造営なのかと。御霊をお祀りする、という考えはわかるのだが……と、口ごもった。
「やはり、もう、景気は、ここまでということですかねぇ。造営にひっかけて、意識の高揚ってことで、誤魔化しているのでしょうかねぇ」
「おい!八代!滅多なことを言うんじゃねぇ!」
おっと、失礼しましたと、肩をすくめ、八代は、とぼけて見せたが、金原はじっと考え込んでいる。
「鬼キヨ、お前はどうするよ?」
変わらずの真顔の親分に攻め寄られ、金原が重い口を開いた。
「……投資は整理しようと思っています。ただ、その他のことは、まだなんとも。親分の方は?」
「そうなんだ。これといった動きはない。だがな、何か、引っ掛かるのよ。高景気なんざぁ、いつまでも続くもんじゃねぇ。ましてや、今度のは、よそ様の国の戦に便乗だろう?……景気は、良いのに、人足の賃金が払えないと、歪みが出始めている。こりゃー、ガクンと、くるだろう……」
そもそも、大戦が終われば、日本は、確実に用無しになる。ドイツへ宣戦布告をして、中華の一部領有権を主張してはいるが、欧州の話に、亜細亜の主権を咬ませた所で、うやむやになる。はたまた、主権をめぐり、当の中華と一騎打ちということもありえるかもしれない。
「……たしかに、親分の仰る通り、今が、造営の機会ということなのでしょうかねぇ」
「ってことは、物資に影響も出やすくなる……か」
「親分、欧州では、小麦が手に入りにくくなっているようです」
「小麦……ってことは、とどのつまり……米……か?!」
親分は、唸りつつ、考え込んだ。
「……うちは、半島と手を組もうかと思っております」
八代が、静かに言う。
「半島?!ってのは、外地、朝鮮ってことか?!」
恐れ入ったねぇ。外地とは、と、親分は、八代を凝視するが、
「まあ、そう考えてはいますけどね、結局、今の大戦がとうなるか次第ですよ」
当の八代は、他人事だった。
「けっ、流石、鬼キヨの右腕だ。食えねぇ野郎だなあ。八代よぉ」
「ははは、お褒め頂きありがとうございます。食えねぇと言えば……ほら」
八代が、示した先には、大皿を持った櫻子が立っていた。その後ろには大鉢を抱えるお玉がいる。
「……結構なものを頂戴したので……お酒と一緒にと思って……」
話の邪魔をしたかもしれないと、緊張する櫻子へ、八代が、こちらへ、と、声をかけた。
座卓に櫻子が皿を置く。お玉も続いて大鉢を置いた。
「おっ!こりゃうまそうだ!刺身に、あら煮かっ!」
親分の顔はたちまちほころんだ。
「社長ーー!!大変っすっーー!!」
そこへ、虎の叫びが響いて来た。
「まさか、うちのが、性懲りもなくまた、何かしやがったかっ!!!」
ほころび顔を、きっと引き締め、親分は立ち上がろうとするが、同時に、虎が部屋へ転がり込んで来た。
「虎!親分の前だぞっ!」
金原が、渇を飛ばす。しかし、虎はその面前へ、新聞を差し出した。
「早刷りの夕刊っす!!!あの、妹が、のってるっすっーー!!」
金原は、引ったくるように、虎から新聞を奪うと、手早く頁をめくり、目を通した。
「……柳原が、いや、義母が動いたか……」
ちっと、小さく舌打ちしつつも、にんまりしながら、新聞を、座卓へ置いた。
開かれた所には、珠子の写真がのっていた。
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