テラーノベル
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昼休みの終わり。
教室はまだざわついている。
笑い声と、机を戻す音が混ざる。
遥は席に座っている。
机の上に、小さな紙袋。
中には、菓子パンが一つ入っている。
購買で残っていたやつ。
たまたま。
最後の一つ。
「それ、どこで買ったの」
声が落ちる。
斜め前から。
遥は少し顔を上げる。
「……購買」
短く答える。
それだけ。
「へえ」
軽く返る。
だが、そのまま終わらない。
「買えたんだ」
別の声。
笑いが少し混じる。
「珍しくね?」
重なる。
「いつも残り物も取れないのに」
誰かが言う。
視線が集まる。
遥は何も言わない。
袋に手をかける。
開けようとする。
その瞬間、
「それさ」
声が被る。
手が止まる。
「誰の分?」
問いが落ちる。
意味は分かる。
遥は答える。
「……自分」
短く。
一瞬、間。
そのあと、笑いが広がる。
「自分?」
繰り返される。
「なんで?」
すぐに続く。
「なんでって何」
誰かが返す。
だが、そのまま乗る。
「いや、なんであいつが食ってんのって話」
笑い。
「分かる」
即答。
「そこ普通に取るんだ」
言葉が重なる。
「遠慮とかないんだな」
軽く言う。
だが外さない。
遥は袋を持ったまま。
開けられない。
「てかさ」
別の声。
「今の並びであれ取れるの逆にすごくね?」
笑い。
「前のやつ普通に見えてたよな」
重なる。
「それでも行くんだ」
言葉が落ちる。
「メンタル強いっていうか、図々しいっていうか」
誰かが言う。
遥は何も言えない。
ただ持っている。
それだけ。
「なあ」
低い声。
少し近い。
「それ、本当にお前が食っていいやつ?」
静かに落ちる。
周りが少しだけ黙る。
視線が集まる。
遥は答える。
「……買ったから」
出る。
小さく。
それでもはっきり。
間。
そのあと、空気が変わる。
「買ったから?」
繰り返される。
「だから何?」
重ねられる。
「それで終わり?」
詰められる。
遥は黙る。
「なあ」
別のやつが言う。
「順番とかあったよな」
思い出すように。
「前にいたやつ、普通に欲しそうにしてたじゃん」
重なる。
「それ無視して取るのどうなん?」
言葉が落ちる。
遥の指が少し強くなる。
袋が少し歪む。
「てかさ」
誰かが笑う。
「こういうとこだよな」
軽く。
だが決める形。
「周り見えてないの」
重なる。
「だから嫌われるんだろ」
そのまま続く。
遥は何も言えない。
ただ立っている。
座っている。
どちらでもない感覚。
「食えよ」
誰かが言う。
急に。
「ほら」
軽く促す。
「食えばいいじゃん」
笑いが混じる。
だが目は外れない。
遥は袋を開ける。
手が少し震える。
パンを出す。
「ちゃんと全部食えよ」
重なる。
「残すなよ」
別の声。
「無駄にすんな」
理由が付く。
遥は一口食べる。
味はしない。
視線だけがある。
「うまい?」
誰かが聞く。
答えは求めていない。
それでも遥は言う。
「……普通」
小さく。
一瞬、間。
そのあと、笑いが崩れる。
「普通だって」
繰り返される。
「普通ならいらなくね?」
重なる。
「他のやつに回せばよかったじゃん」
言葉が続く。
「なんで取ったの?」
また戻る。
最初に。
遥は答えない。
答えがない。
「なあ」
低い声。
近い距離。
「さっき“自分の”って言ったよな」
静かに落ちる。
「そういうとこだよ」
短く。
「自分の、って思ってるとこ」
重なる。
遥は手を止める。
パンを持ったまま。
「ここにあるもの全部」
誰かが言う。
「お前のために用意されてるわけじゃないから」
断定される。
「分かる?」
視線が刺さる。
遥は何も言えない。
「続けろよ」
別の声。
「止まんな」
促される。
遥はまた食べる。
飲み込む。
味はない。
ただ、喉に落ちる。
「いいじゃん」
誰かが言う。
「ちゃんと食ってる」
笑いが少し戻る。
だが軽くない。
「じゃあ最後までいけよ」
重なる。
「途中でやめんなよ」
逃げ道が塞がる。
遥は食べる。
一口ずつ。
視線の中で。
全部。
袋が空になる。
手が止まる。
その瞬間、
「で?」
声が落ちる。
「満足?」
問いが来る。
遥は答えない。
答えがない。
「なあ」
最後に誰かが言う。
静かに。
「それでいいと思ってんの?」
その言葉だけが残る。
ここでは、少しだけ手に入ったものが、そのまま理由になる。持った瞬間に視線が集まって、どう取ったか、どう使うか、全部を説明させられる。普通に手に入れたものでも、そこに“お前が持っていいのか”という条件が後から乗る。少しでも満たした感覚が出た瞬間に、それを崩す方向で言葉が重なっていく。
コメント
1件
うわ……読んでて胸がぎゅってなったわ。 たかが一個の菓子パンなのに、あの“食っていいのか”って空気、すごくリアルで怖かった。 遥が黙って食べ続けるしかない状況、味しないのに飲み込むしかない感じ、めちゃくちゃ伝わってきた。 「それでいいと思ってんの?」の最後の一言、ずしりと重かった……。 次、遥がどうなっていくのか気になるわ。
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Ren .
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