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亡霊@男子化
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第1話 四季星へようこそ
朝倉悠斗のもとへ招待状が届いたのは、雨上がりの朝だった。
玄関の呼び出し音が、一度だけ鳴った。
悠斗は寝起きのまま廊下へ出た。
時計は午前六時を少し過ぎている。
宅配便が来るには早い。
のぞき穴から外を確かめたが、廊下には誰もいなかった。
呼び出し音は聞き間違いだったのかもしれない。
そう思いながら扉を開けると、足元に薄い箱が置かれていた。
片手で持てる大きさだった。
送り主の名前も、配送会社の印もない。
箱の中央には、細い線を何本も重ねたような記号が刻まれている。
悠斗が指先で触れると、記号がわずかに震えた。
重なっていた線がほどけ、見慣れた文字へ変化する。
朝倉悠斗さん。
四季星への一か月旅行へご招待いたします。
悠斗は箱を持ったまま、廊下の左右を見た。
階段にも人影はない。
隣の部屋から生活音が聞こえてくるだけだった。
部屋へ戻り、扉の鍵を掛ける。
箱を机へ置くと、ふたがひとりでに開いた。
中には一枚の招待状と、腕輪のようなものが入っていた。
招待状は紙に見える。
だが持ち上げると、紙よりも柔らかく、布よりも軽かった。
表面には文字が浮かんでいる。
費用はすべて四季星側が負担。
滞在期間は一か月。
衣食住、移動、医療、通訳、娯楽まで完全無料。
同行者は地球人四名。
集合場所までは観光客専用UFOが迎えに来る。
地球へ戻る際、地球側で経過する時間は数分以内に調整される。
悠斗は最後の一文で目を止めた。
四季星へ招待されるのは、生涯で一度だけです。
何度読み直しても、文章は変わらなかった。
机の上に置いた腕輪の内側へ数字が浮かぶ。
出発まで、七日。
秒を刻むように数字が減っていく。
悠斗は椅子へ腰を下ろした。
悪質な冗談にしては手が込んでいる。
詐欺にしては、料金の請求も口座情報の入力もない。
箱の底には、四季星の紹介映像が浮かんでいた。
花畑と果樹園が広がる地域。
湖や川に囲まれた温泉街。
農園と市場が続く地域。
雪原と山岳地帯。
四つの季節が、一つの星に共存している。
映像へ指を近づけると、花びらが悠斗の手を避けるように舞った。
作り物だと分かっている。
それでも、香りまで感じた気がした。
悠斗は映像を閉じた。
腕輪を箱へ戻す。
五分後、また取り出した。
参加するかどうか。
急いで決める必要はない。
七日ある。
そう考えながらも、悠斗の視線は窓の外へ向いた。
雨を含んだ道路を車が走っている。
傘を閉じた人々が駅へ急いでいる。
いつもの朝。
いつもの町。
その中で、四季星という言葉だけが、どこにもつながらず浮かんでいた。
藤原美咲は、招待状を読んだ直後に声を上げた。
「四季星?」
一人暮らしの部屋に、自分の声が響く。
美咲は箱を持ち上げ、裏返した。
箱の底にも送り主は書かれていない。
招待状には、自分の名前だけではなく、苦手な食べ物や乗り物酔いの経験まで記されている。
旅行中の撮影は可能。
景観保護区域では専用機器を貸し出す。
長時間の移動に不安がある場合、睡眠設備を利用できる。
美咲は首から下げていたカメラを構えた。
招待状へ焦点を合わせ、撮影する。
画面を確かめる。
机しか写っていない。
美咲は肉眼で招待状を見る。
そこには確かに置かれている。
もう一度撮る。
やはり画面には机しかない。
「え、うそ」
角度を変える。
設定を変える。
動画にも切り替える。
何をしても招待状だけが映らない。
美咲はカメラを下ろした。
怖い。
そう思うべきなのかもしれない。
けれど胸の奥では、別の感情が膨らんでいた。
見たことのないものを見つけたときの感覚。
知らない道の角を曲がる直前のような、落ち着かない期待。
招待状へ触れると、小さな映像が浮かんだ。
水辺の旅館。
光る植物に囲まれた道。
冷感温泉へ入った四季星人が、両腕を伸ばしている。
雪の降る温泉街。
小型飛行機から眺める山々。
美咲は机へ顔を近づけた。
「行きたい」
腕輪が淡く明滅した。
参加意思を確認しました。
美咲は目を丸くする。
「今ので決定?」
参加意思を確認しました。
「取り消しは?」
出発二十四時間前まで可能です。
「じゃあ、とりあえず行く」
参加を受け付けました。
美咲は椅子の背へ体を預けた。
唇が自然に持ち上がっていた。
異星旅行。
一か月。
知らない人が四人。
家族へ話したら、きっと冗談だと思われる。
友人へ見せようとしても、招待状は写真に写らない。
だからこそ、自分で確かめるしかない。
美咲はカメラの記録画面を開いた。
机だけが写った写真を見つめる。
何もないはずの机の上に、招待状の形だけが影になって残っていた。
高瀬直人は、招待状を三日間調べ続けた。
素材の厚さ。
表面温度。
光の反射。
水分への反応。
電波の発生。
どの結果も、直人が知る素材とは一致しなかった。
紙のように折れる。
しかし折り目は数秒で消える。
水を落としても濡れない。
強く引いても破れない。
表面の文字は、見る者に合わせて変化しているらしい。
直人が英語を意識すると英語へ変わり、数字へ目を向けると地球で一般的な表記へ切り替わる。
「翻訳ではない」
直人は独り言を漏らした。
意味そのものを、読む者の頭へ合わせている。
そう考えたほうが近い。
招待状には、地球へ戻る際の経過時間についても書かれている。
一か月の滞在を終えても、地球では数分しか経過しない。
その一文を、直人は何度も読み直した。
本当なら、仕事を長く休む必要はない。
周囲へ旅行を説明する必要もない。
都合が良すぎる。
都合が良すぎる話には、隠された目的がある。
直人は書類ケースを開き、招待状を中へ収めた。
腕輪だけを机の上へ置く。
参加しますか。
浮かんだ文字を見つめる。
「選考基準は?」
回答できません。
「なぜ私を選んだ」
回答できません。
「無作為なのか」
地球向けには、無作為選出と案内しています。
直人は眉を寄せた。
地球向けには。
答えになっていない。
「実際には違うのか」
回答できません。
腕輪の文字が消えた。
直人は眼鏡を外し、目元を指で押さえた。
危険性はある。
目的も分からない。
断る理由はいくらでも思いつく。
それでも、ここまでの技術を持つ存在が本当にいるなら、確かめずに終えるほうが後悔する。
直人は眼鏡を戻した。
「参加する」
参加意思を確認しました。
腕輪の表示が切り替わる。
出発まで、四日。
直人はその数字を記録用紙へ書き写した。
結城陽菜は、招待状を母親へ見せようとした。
「これ、見て」
夕食の支度をしていた母親は、手を拭いてから招待状を受け取った。
「何?」
「四季星の招待状」
「何も書いてないけど」
陽菜は笑いかけた。
母親の表情は変わらない。
冗談を言っている顔ではなかった。
「文字、見えないの?」
「何の文字?」
招待状を返してもらう。
陽菜には、はっきり読める。
結城陽菜さん。
一か月無料。
観光客専用UFO。
母親には、何も書かれていないらしい。
兄にも見せた。
兄は、変わった紙だと言っただけだった。
父親は、学校でもらったものかと尋ねた。
陽菜は招待状を抱え、自分の部屋へ戻った。
扉を閉め、ベッドへ座る。
「私にしか見えないの?」
招待者本人のみ閲覧できます。
文字が現れた。
陽菜は驚き、招待状を落としかけた。
「話せるの?」
質問への回答が可能です。
「四季星って、本当にあるの?」
存在します。
「危なくない?」
安全を最優先します。
「絶対?」
絶対という表現は使用できません。
陽菜は口を曲げた。
「そこは正直なんだ」
招待状の隅に、小さな鳥の姿が浮かんだ。
羽を広げ、すぐに消える。
陽菜はリュックに付けていた鳥の飾りへ触れた。
「四季星にも鳥はいる?」
地球で鳥と呼ばれる生物に近い種が存在します。
「しゃべる?」
一部の種は、簡単な音声模倣が可能です。
「会える?」
春域で観察できる可能性があります。
陽菜は招待状へ身を乗り出した。
怖さは消えていない。
けれど質問をするたびに、知らない景色が近づいてくる。
花畑。
温泉。
市場。
雪原。
一か月で四つの季節を巡る旅。
陽菜は腕輪を手首へ通した。
輪は手首の太さに合わせ、柔らかく縮んだ。
参加しますか。
陽菜は息を吸う。
「参加します」
参加意思を確認しました。
腕輪が温かくなった。
陽菜は扉の外へ耳を澄ませた。
家族の会話が聞こえる。
今いる場所は、いつもの家だ。
それなのに手首の輪だけが、遠い星へつながっているように思えた。
真田蓮は、招待状の入った箱を翌朝まで開けなかった。
仕事を終えて部屋へ戻ると、玄関の中央に箱が置かれていた。
またいで通り、台所へ向かう。
水を飲み、椅子へ座る。
箱から一定の間隔で短い音が鳴っていた。
蓮は振り返らない。
しばらくすると音は止まった。
その夜、蓮はいつもの夢を見た。
重い荷物を背負い、長い坂道を上っている。
足元には硬い石が並んでいる。
前を歩く誰かの背中しか見えない。
立ち止まると、後ろから怒鳴り声が飛んだ。
何を言われているのか分からない。
それでも意味だけは伝わる。
歩け。
止まるな。
役に立て。
蓮は坂道で足を滑らせた。
肩へ強い衝撃が走る。
目を覚ました。
呼吸が乱れている。
部屋は暗い。
枕元に、箱が置かれていた。
玄関にあったはずの箱。
蓮は上半身を起こし、しばらく見つめた。
自分で運んだ覚えはない。
ふたを開ける。
招待状の最初に、四季星という文字がある。
その言葉を見た瞬間、夢の中で聞いた怒鳴り声が耳の奥へ戻った。
蓮は招待状から手を離した。
行くべきではない。
頭ではそう考えた。
招待状には、四つの地域の案内が浮かんでいる。
春域。
夏域。
秋域。
冬域。
冬域の雪原を見たとき、胸の奥が狭くなった。
見たことなどない。
地球のどこかに似ているわけでもない。
それでも、懐かしいという言葉に近い感覚があった。
蓮は腕輪を手に取った。
参加しますか。
返事をせず、机へ置いた。
翌日も、腕輪は同じ質問を浮かべた。
その次の日も。
出発まで三日。
蓮は仕事から戻り、椅子へ座った。
「参加する」
声は小さかった。
参加意思を確認しました。
表示が変わる。
蓮は目を閉じた。
夢の坂道が、遠くへ消えなかった。
出発の日。
悠斗は指定時刻の十五分前から、町外れの河川敷に立っていた。
雨は降っていない。
厚い雲の隙間から、弱い日差しが川面へ落ちている。
集合場所として示された地点には、目印らしいものがなかった。
遊歩道。
草地。
川。
少し離れた道路を走る車。
犬を連れた人が通り過ぎる。
誰も悠斗を気に留めない。
手首の腕輪には、残り十秒と表示されている。
悠斗は空を見上げた。
九。
八。
七。
何も起きない。
六。
五。
川の上の景色が揺れた。
四。
空気の中に薄い輪郭が現れる。
三。
円盤状の機体が、音もなく姿を見せた。
二。
犬を連れた人は振り返らない。
一。
機体の底から細い光が伸び、悠斗の足元を包んだ。
体が軽くなる。
地面が離れていく。
悠斗はとっさに旅行かばんの持ち手を握り締めた。
声を上げる間もなく、視界が閉ざされた。
足が床へ触れた。
悠斗は膝を曲げ、体勢を整える。
目の前に広がっていたのは、窓のない円形の部屋だった。
床は靴音を吸い込むように柔らかい。
壁は継ぎ目がなく、天井全体が穏やかに発光している。
空気には、森の中に似た匂いがあった。
悠斗は旅行かばんを持ち直し、部屋を一周見渡した。
出口らしい扉が五つ。
中央には細い円が描かれている。
悠斗が円へ近づくと、天井から光が降りた。
光の中に、人影が現れる。
藤原美咲だった。
美咲は床へ降りる直前に両腕を広げ、危うく尻もちをつきそうになった。
「うわっ」
悠斗が手を伸ばす。
美咲はその腕をつかみ、体勢を立て直した。
「ありがとうございます」
「大丈夫ですか」
「たぶん。足がまだ地面に戻ってない感じ」
美咲は笑いながら足首を動かした。
肩に触れる長さの髪が揺れる。
首から下げたカメラを押さえ、悠斗を見上げた。
「地球人ですよね?」
「そうです」
「よかった。最初に知らない生き物が立ってたら、どう挨拶するか迷うところだった」
美咲は差し出した手を少し高く上げた。
「藤原美咲です」
「朝倉悠斗」
握手を交わす。
美咲の手は少し冷えていた。
「朝倉さんは、どこから?」
「日本です」
「私もです。世界各地から五人って書いてあったのに、最初から二人とも同じなんですね」
「選ばれ方が本当に無作為なら、そういうこともあるのかもしれません」
悠斗が答えると、美咲は片方の眉を上げた。
「無作為じゃないと思ってる?」
「まだ分かりません」
「冷静だなあ」
美咲はカメラを構えた。
円形の部屋へ向け、撮影する。
画面を確認し、目を輝かせた。
「写ってる。招待状は写らなかったのに」
「招待状が?」
「何回撮っても、そこだけ空っぽだったんです」
悠斗が答える前に、二本目の光が降りた。
高瀬直人が姿を現した。
着地した瞬間も、手にした小型の計測器を見ている。
短く整えた髪。
細い縁の眼鏡。
襟のあるシャツ。
片手には硬い書類ケース。
直人は計測器を何度か操作し、眉を寄せた。
「記録が途切れている」
「こんにちは」
美咲が声を掛ける。
直人はようやく顔を上げた。
悠斗と美咲を順に見て、軽く頭を下げる。
「高瀬直人です。移動の瞬間、こちらの機器がすべて停止しました」
「藤原美咲です」
「朝倉悠斗」
直人は二人の腕輪へ目を向けた。
「同じものを受け取ったようですね」
書類ケースを開き、招待状を取り出す。
美咲も自分の招待状を見せた。
悠斗も旅行かばんから取り出す。
三枚を並べる。
文字の配置は異なる。
だが書かれている内容は同じだった。
「招待状を受け取った日時は?」
直人が尋ねた。
「一週間前です」
悠斗が答える。
「私も」
美咲が続ける。
「私も同じです。選考基準について質問しましたが、回答できないと表示されました」
「私も聞けばよかった」
美咲が招待状へ顔を寄せる。
直人は眼鏡の位置を指で直した。
「無作為と案内されていますが、回答は曖昧でした。地球向けには無作為選出と表現している、と」
悠斗はその言葉で視線を上げた。
「地球向けには?」
「ええ。実際の選び方は、別にある可能性があります」
美咲の笑顔が少しだけ止まる。
そのとき、三本目の光が降りた。
結城陽菜が姿を現した。
床へ降りると同時に膝を曲げ、その場へ座り込む。
腰近くまで伸びた髪が肩から前へ落ちる。
大きめのパーカー。
鳥の飾りが付いた小さなリュック。
「足が、ふわっとする……」
美咲がすぐに近づき、手を差し出した。
「立てる?」
陽菜は顔を上げた。
大きな目が美咲と悠斗たちの間を動く。
「はい。ありがとうございます」
美咲の手を借りて立ち上がる。
「結城陽菜です」
「藤原美咲」
「朝倉悠斗です」
「高瀬直人です」
名前を聞くたび、陽菜は頭を下げた。
「皆さんも四季星へ?」
「そうです」
美咲が答える。
「よかった。私だけだったらどうしようって思ってました」
「招待状には同行者が四名いると書かれていました」
直人が言う。
陽菜は少し恥ずかしそうに笑った。
「分かってたんですけど、実際に会うまで信じられなくて」
「私も。招待状が写真に写らなかったし」
「私の家族には文字が見えませんでした」
美咲の表情が変わる。
「私以外にも?」
「お母さんにも、お父さんにも、兄にも見せたんです。でも何も書かれてないって」
直人が招待状へ目を落とす。
「本人以外には内容を隠す仕組みか」
陽菜は腕輪を触った。
「招待状に聞いたら、本人しか見られないって答えました」
「会話できたんですか?」
「少しだけ」
直人が質問を続けようとしたところで、最後の光が降りた。
真田蓮が現れる。
着地しても、すぐには顔を上げなかった。
耳に触れる長さの髪が額へかかっている。
丈の長い上着。
使い込まれた旅行かばん。
ほかの四人から半歩離れた位置で、床を見つめている。
悠斗が近づいた。
「大丈夫ですか」
蓮は少し遅れて顔を上げた。
「大丈夫です」
声は低く、落ち着いている。
「真田蓮です」
五人が名乗り合う。
蓮は必要な言葉だけを返し、部屋を見回した。
その視線は出口より先に、天井の発光部分へ向いた。
「何か気になりますか」
悠斗が尋ねる。
「見られている気がする」
美咲が天井を見上げる。
「カメラ?」
「分かりません」
蓮はそれ以上言わなかった。
陽菜が不安そうに天井を見上げたため、悠斗は部屋の中央へ視線を戻した。
「今は全員そろったみたいです。まず、ここがどこなのか確かめましょう」
自然と四人の視線が悠斗へ集まる。
悠斗は一瞬だけ言葉を止めた。
先頭へ立つつもりはなかった。
けれど誰かが動かなければ、全員が円の周りに立ったままになる。
「扉は五つあります。腕輪に反応するかもしれません」
直人がうなずく。
「同感です。一人ずつ試しましょう」
悠斗が最も近い扉へ近づく。
手首の腕輪が温かくなった。
扉の中央に文字が浮かぶ。
朝倉悠斗さん。
個室へご案内します。
扉が静かに開いた。
中には寝台と机が見える。
「個室みたいです」
悠斗が振り返ると、残り四つの扉にも名前が浮かんだ。
五人それぞれの部屋らしい。
美咲が自分の扉へ顔を近づける。
「名字と名前、間違ってない」
「招待状に書いてあったから当然では」
直人が言う。
「分かってるけど、知らない乗り物の中に自分の名前があると変な感じしません?」
直人は扉を見た。
「確かに、落ち着きませんね」
美咲は少し笑った。
「高瀬さんもちゃんと落ち着かないんだ」
「落ち着いて見えるだけです」
その返事に、陽菜が小さく笑う。
蓮の口元も、ほんの少しだけ動いた。
その瞬間、天井の一部が点滅した。
悠斗はすぐに顔を上げる。
光は消えている。
「どうしました?」
陽菜が尋ねる。
「今、天井が光ったように見えました」
直人も見上げる。
「照明の調整では?」
「かもしれません」
悠斗は答えながら、点滅した場所を覚えておいた。
室内へ柔らかな音が流れた。
五人の前に、人の形をした立体映像が浮かぶ。
四季星人だった。
体つきは地球人に近い。
耳の後ろから、薄い葉のような器官が伸びている。
頬から首へかけて細かな模様があり、呼吸に合わせて淡く明滅していた。
四季星人は胸元へ片手を添え、深く頭を下げる。
「地球からお越しの皆さん。長い移動、お疲れさまでした」
声は日本語だった。
唇の動きとは少しずれている。
それでも聞き取りにくさはない。
すぐ近くで話しかけられているように耳へ届いた。
「私は皆さんの移動を担当するフィルと申します」
立体映像の四季星人が、五人を順番に見る。
映像であるはずなのに、視線が合っているように感じられた。
「現在、皆さんを乗せた観光客専用UFOは地球周辺を離れ、四季星へ向けて移動を開始しました」
美咲が周囲を見回す。
「窓はないんですか?」
フィルが美咲へ顔を向けた。
「皆さんの体調を確認したあと、展望室をご案内いたします」
「外、見られるんですね」
「もちろんです」
直人が一歩前へ出る。
「移動時間はどれくらいですか」
「地球での体感時間では、およそ六時間です」
「四季星までの距離は?」
「地球で一般的に使われている単位では、正確な説明が困難です。移動経路の一部で、距離の扱いそのものが変化します」
直人は腕を組んだ。
「移動中、体へ影響は?」
「地球の重力環境に近い状態を維持します。体調不良が発生した場合は、すぐに治療を行います」
「治療の方法は?」
「症状に応じて調整します」
「地球人へ使用した実績は?」
「過去の招待旅行で蓄積された記録があります」
その言葉に、悠斗はフィルを見る。
「過去にも地球人が来たんですか」
「はい」
「何人くらい?」
「回答権限がありません」
直人の眉がわずかに動く。
美咲は両手を腰へ当てた。
「答えられないこと、多いですね」
フィルは表情を変えなかった。
「皆さんの安全に関係する質問には、可能な限り回答します」
「選ばれた理由は、安全に関係しないんですか?」
陽菜が尋ねた。
フィルの頬にある模様が一度だけ強く明滅した。
「選考は専門部署が行っています」
「無作為なんですよね?」
「地球では、そのように案内しています」
直人がすぐに言葉を重ねる。
「実際の選考方法は異なるという意味ですか」
数秒の沈黙。
フィルは頭を下げた。
「回答権限がありません」
蓮が壁際で腕を組んだ。
驚いた様子は見せない。
だが視線は、フィルの頬に浮かぶ模様へ向いている。
悠斗は四人を見た。
不安を口にしたところで、今すぐ地球へ戻れるわけではない。
質問を続ければ何か分かるかもしれないが、最初から対立する必要もない。
「到着してから、選考を担当した人へ質問できますか」
悠斗が尋ねる。
フィルは悠斗へ向き直った。
「要望として記録いたします」
「会えるとは言わないんですね」
「面会の可否は、到着後に判断されます」
悠斗はうなずいた。
曖昧ではある。
しかし完全な拒否でもない。
「分かりました。今は移動について教えてください」
フィルの頬の模様がゆっくりと明滅する。
「ありがとうございます、朝倉悠斗さん」
名前を呼ばれた瞬間、天井の同じ場所が小さく点滅した。
悠斗は見逃さなかった。
展望室へ続く通路は、緩やかに曲がっていた。
壁には、地球の森を思わせる映像が流れている。
葉が揺れ、水が流れ、小さな生き物が枝から枝へ移る。
陽菜は歩きながら壁へ顔を近づけた。
「本物みたい」
指を伸ばすと、壁の中の生き物が陽菜の指を避けた。
陽菜は目を輝かせる。
「反応した」
「動きを読み取っているんでしょう」
直人が言う。
「分かってても面白いです」
陽菜は次の生き物を追いかける。
美咲がその様子を撮影する。
「陽菜ちゃん、もう一回触って」
「こう?」
「いいね。異星旅行、一枚目」
「さっきの部屋も撮ってましたよね」
「あれは準備。今のが一枚目」
美咲は笑いながら画面を見せた。
陽菜は少し照れながらも、すぐに別の映像へ目を移した。
悠斗は二人の後ろを歩きながら、直人へ声を掛ける。
「招待状を調べたんですか」
「できる範囲で」
「何か分かりました?」
「地球に存在する一般的な素材ではありません。それ以上は分かりませんでした」
直人は書類ケースの取っ手を握り直した。
「私の調べ方が不十分だった可能性もあります」
「三日調べて分からなかったなら、十分だと思います」
「分からないことが分かっただけです」
美咲が振り返る。
「高瀬さんって、何でも調べないと気が済まないタイプですか?」
「気になることは確認します」
「旅行先でも?」
「必要なら」
「じゃあ、変なものを見つけたら最初に高瀬さんへ言えばいいんだ」
「変なものの定義によります」
「そういうところ、真面目ですね」
美咲は楽しそうに笑い、また前を向いた。
直人は返事をしなかった。
ただ、先ほどよりもわずかに歩調が軽くなっていた。
展望室の扉が開く。
五人は言葉を失った。
壁も天井も床も透き通り、周囲すべてが無重力空間へ変わったように見える。
足元には何もない。
遠くに地球が浮かんでいる。
雲の帯。
海。
陸地。
地上で見慣れた世界が、一つの球体になって遠ざかっていく。
陽菜が悠斗の上着をつかんだ。
「落ちないですよね?」
「床はあります」
悠斗は足元を踏んだ。
感触はある。
「見えないだけです」
陽菜はゆっくり手を離した。
「分かってるんですけど、体が信じてくれなくて」
蓮が陽菜の隣へ立ち、足元を一度踏んだ。
「大丈夫です」
短い言葉だった。
陽菜は蓮の足元を見てから、自分でも一歩踏み出した。
床は確かにある。
「大丈夫でした」
「よかった」
蓮はそれだけ言い、地球へ視線を向けた。
美咲はカメラを構えている。
何度も撮影音が鳴る。
「写る。ちゃんと写ってる」
画面には、遠ざかる地球と五人の姿が映っている。
「みんな、一緒に撮りません?」
美咲が尋ねた。
直人が地球から視線を外す。
「到着前から記念撮影ですか」
「到着前だからいいんです。地球を背景に撮れるの、今だけかもしれないし」
陽菜がすぐに美咲の隣へ立つ。
「撮りたいです」
悠斗は蓮を見る。
蓮は少し迷ったあと、二人の後ろへ移動した。
直人も眼鏡の位置を直し、並ぶ。
美咲がカメラを小さな台へ載せた。
「十秒です」
急いで五人の中へ入る。
最初は不自然な間が空いていた。
悠斗は右へずれ、蓮との間を詰める。
陽菜が美咲の腕を引く。
直人は中央へ押し出された。
「高瀬さん、もっと近く」
「十分近いです」
「まだ入れます」
「藤原さん、カメラを見てください」
「あ、はい」
撮影音が鳴った。
美咲が台へ駆け寄り、写真を確認する。
「いい感じ」
四人も画面をのぞく。
地球を背に、五人が並んでいる。
悠斗は落ち着いた表情。
美咲は大きく笑っている。
直人は少し硬い。
陽菜は目を輝かせている。
蓮は表情が薄いが、視線はカメラへ向いている。
「初対面に見えないかも」
美咲が言う。
「十分、初対面に見えます」
直人が答える。
「じゃあ一か月後、同じ並びで撮りましょう」
陽菜が写真を見たまま言った。
「帰る前に」
美咲がうなずく。
「いいね。どれくらい変わるかな」
帰る前。
その言葉が、展望室へ静かに残った。
悠斗は地球を見る。
一か月後。
地球では数分しか経過していない。
自分たちは本当に、同じ場所へ戻れるのだろうか。
不安が胸をよぎった。
すぐに振り払う。
今はまだ、旅が始まってもいない。
地球が遠ざかる。
展望室の中へ、穏やかな音楽が流れた。
「現在、皆さんの心拍と呼吸が安定しました」
フィルの声が聞こえる。
天井付近に細かな数字が浮かんだ。
悠斗は目を細める。
数字はすぐに消えた。
「今のは?」
悠斗が尋ねる。
フィルの立体映像が現れる。
「移動への不安が軽減されたことを示す健康記録です」
「一人ずつ記録しているんですか」
「はい」
「何のために?」
「皆さんへ快適な旅行を提供するためです」
美咲がカメラを下げる。
「旅行会社のアンケートみたいなもの?」
「地球の制度へ置き換えると、近い部分があります」
直人は天井を見た。
「表情も記録していますか」
「はい」
「会話は?」
「安全管理と通訳のため、一時的に処理しています」
「保存期間は?」
フィルは少し黙った。
「必要な範囲です」
「具体的には?」
「回答権限がありません」
直人の口元が硬くなる。
美咲が間へ入るように手を振った。
「まあまあ。乗ってすぐ全部疑ってたら、楽しめないですよ」
「疑うことと楽しむことは両立します」
「器用ですね」
「普通です」
「高瀬さんの普通は、たぶん普通より慎重です」
陽菜が吹き出した。
直人は陽菜を見る。
陽菜は慌てて口元を押さえた。
「すみません」
「謝る必要はありません」
直人の声は変わらない。
しかし眼鏡の奥の目が、少しだけ柔らかくなっていた。
展望室を出たあと、五人はそれぞれの個室へ案内された。
悠斗の部屋には、寝台と机、浴室、小さな収納がある。
どの家具にも角がない。
寝台へ手を触れると、指の形に合わせて柔らかく沈み、すぐに元へ戻った。
机には透明な容器が置かれている。
中の液体は水に見える。
飲用可能です。
壁に文字が浮かんだ。
悠斗は容器へ口をつける。
味はほとんどない。
飲み込むと、喉から胸へ穏やかな温かさが広がった。
水分不足が改善されました。
推奨休息時間、二十三分。
悠斗は容器を机へ戻す。
どこまで体を調べているのか。
便利ではある。
だが、便利すぎるものは自分で考える時間を奪う。
悠斗は寝台へ腰を下ろした。
壁へ手を触れる。
「案内を表示」
壁に四季星の地図が浮かぶ。
春域。
夏域。
秋域。
冬域。
四つの巨大地域は、境界を接しながら広がっている。
春域では花畑と果樹園が続く。
夏域には湖、川、温泉街。
秋域には農園、食堂、市場。
冬域には雪原と山岳地帯。
一週間ずつ巡り、合計一か月。
悠斗は冬域の地図へ指を近づけた。
観光区域が表示される。
小型飛行機の発着場。
温泉街。
宿泊施設。
その奥に、表示されない広い空間がある。
指を重ねても情報は出ない。
「この場所は?」
回答できません。
壁に文字が浮かぶ。
「観光区域ではない?」
回答できません。
悠斗は地図を閉じた。
到着前から気にしすぎる必要はない。
そう考えながらも、表示されなかった場所の形を頭へ残した。
共用室には、五人分の食事が用意されていた。
地球の料理に近いものが並んでいる。
米に似た穀物。
焼いた肉。
野菜の煮込み。
果物。
見慣れているようで、少しずつ形が違う。
陽菜は細長い果物を持ち上げた。
表面には小さな突起が並んでいる。
「これ、どうやって食べるんだろう」
近くにいた案内機械が動いた。
丸い胴体に細い腕が二本付いている。
「結城陽菜さんには、切り分けた状態を推奨します」
機械の腕から薄い刃が伸び、果物を二つに分けた。
中には透明な粒が詰まっている。
「きれい」
陽菜が顔を近づける。
「苦味を弱く調整しています」
「私、苦いものが苦手って言いましたっけ」
「招待前の生活情報から推測しました」
陽菜の手が止まる。
直人が機械へ向き直った。
「生活情報とは?」
「食事記録、購入履歴、会話内容、表情変化などです」
「本人の許可なく収集したんですか」
「安全で快適な旅行を提供するため、必要な範囲を確認しました」
「招待状を受け取る前から?」
「選考に必要でした」
共用室が静かになった。
悠斗は機械を見る。
「何の選考ですか」
「回答権限がありません」
美咲は椅子へ座りながら、果物を一粒取った。
「食べて大丈夫なんですよね?」
「安全性を確認済みです」
美咲は口へ入れる。
数回かみ、目を見開いた。
「おいしい」
「地球の言語における肯定的評価として記録します」
機械の表面に文字が浮かぶ。
満足。
美咲は文字を指差した。
「今のも記録?」
「はい」
「旅行会社なら感想くらい記録するか」
直人は納得していない。
「通常は、本人へ利用目的を明示します」
「高瀬さんは食べないんですか?」
陽菜が尋ねる。
「安全性について確認してからです」
「機械は安全だって」
「機械自身の説明だけでは、十分とは言えません」
蓮が自分の皿から果物を一粒取り、口へ入れた。
全員の視線が集まる。
蓮はゆっくり飲み込んだ。
「苦くないです」
陽菜が笑う。
「真田さん、先に食べてくれたんですか」
「自分が食べたかっただけです」
蓮はそう言い、もう一粒取った。
悠斗には、蓮が陽菜の不安を消すために食べたように見えた。
だが口には出さなかった。
美咲は別の料理を皿へ取る。
「せっかく来たんだから、食べられるものは食べましょうよ」
「慎重さも必要です」
直人が答える。
「じゃあ高瀬さんは調べる係。私は食べる係」
「役割分担のつもりですか」
「そうです」
美咲は肉料理を一口食べ、笑った。
「これもおいしい」
案内機械の表面へ、また文字が浮かぶ。
満足。
悠斗はその文字を見つめた。
記録するだけなら、なぜ目に見える形で表示するのだろう。
安心させるためか。
隠す必要がないと思っているのか。
それとも、見せても問題ない程度の情報だけを表示しているのか。
「朝倉さん」
美咲に呼ばれ、悠斗は顔を上げた。
「考え込んでます?」
「少し」
「高瀬さんと同じ顔してます」
「それはどういう顔ですか」
直人が尋ねる。
「旅行先でも仕事してる顔」
「私は仕事をしていません」
「じゃあ、考察してる顔」
陽菜が笑う。
悠斗も少し口元を緩めた。
「今は食べます」
「それがいいです」
美咲が悠斗の皿へ料理を載せる。
勝手に取られたはずなのに、不思議と嫌ではなかった。
食事のあと、談話室で四季星の観光案内が始まった。
壁一面へ春域の景色が広がる。
花畑の間を細い道が続き、その先に丸い建物が並んでいる。
果樹園では、枝から大きな実が垂れている。
小さな生き物が花から花へ飛び移っていた。
陽菜が身を乗り出す。
「鳥に近い生き物かな」
「羽はありますね」
悠斗が答える。
「招待状に聞いたら、地球の鳥に近い生き物がいるって言ってました」
「話せるんですか?」
美咲が尋ねる。
「音をまねする種類はいるみたいです」
「会えたら撮りたい」
映像が入眠施設へ切り替わる。
体を包み込む椅子。
呼吸や心拍を読み取り、安心して眠れる振動と音を作る。
美咲が自分の肩を揉んだ。
「これ、絶対寝る」
「さっきの健康確認用の椅子に近いですね」
直人が言う。
「高瀬さんも目を閉じてましたよ」
陽菜が指摘する。
「確認のためです」
「寝そうでした」
「寝ていません」
美咲が笑いをこらえる。
映像は夏域へ移る。
湖と川。
水辺の旅館。
温泉街。
湯気の立たない冷感温泉へ四季星人が入り、気持ちよさそうに体を伸ばしている。
夜になると植物が光り、涼しい場所から花火を眺めている。
「夏なのに温泉?」
陽菜が首をかしげる。
直人が説明文を読む。
「体温や疲労に合わせ、成分と温度を変えるそうです。冷感温泉は入浴中に体表の熱を調整し、出たあとも涼しさが続く」
「入りたい」
美咲が即答する。
「冷たいのかな」
「冷たすぎる温度にはならないようです」
「高瀬さん、もう案内役みたい」
「表示を読んでいるだけです」
秋域。
農園。
食堂。
市場。
招待客は収穫体験や料理作りを楽しめる。
香りから過去の思い出を再現する店もある。
美咲の笑顔が少しだけ弱くなった。
「思い出を再現って、どこまで?」
フィルの声が答える。
「本人の記憶に残る香りを分析し、近い感覚を再現します」
「忘れてることも?」
「記憶の状態によります」
美咲はカメラのひもを指でなぞった。
何かを考えている。
悠斗は尋ねなかった。
映像が冬域へ変わる。
雪原。
山岳地帯。
広大な私有地。
小型飛行機が地面を離れ、山々の間を進む。
短時間だけ招待客自身が操縦できるという。
陽菜が声を上げた。
「自分で操縦できるんですか?」
「安全装置があるとはいえ、危険では」
直人がフィルへ尋ねる。
「飛行機は常に自動制御されています。招待客の操作は、安全な範囲だけ反映されます」
「それなら操縦というより体験ですね」
「地球の言葉では、操縦体験が近い表現です」
飛行映像のあと、雪の降る温泉街が映る。
屋根へ雪が積もり、湯気が通りへ流れている。
陽菜は画面へ両手を合わせた。
「夏にも冬にも温泉がある」
美咲がうなずく。
「夏は涼しくて、冬は温かい。両方入りたい」
「一か月で全部回るんだから、入れるんじゃない?」
悠斗が言う。
「朝倉さんも楽しみになってきました?」
美咲に尋ねられ、悠斗は映像を見る。
花畑。
湖。
農園。
雪原。
「来たからには、楽しみたいです」
「それでこそリーダー」
「いつリーダーになったんですか」
「さっき、まず何をするか決めてくれたから」
陽菜もうなずく。
「朝倉さんが言ってくれなかったら、私、まだ最初の部屋で困ってたと思います」
直人が悠斗を見る。
「判断は適切でした」
蓮は何も言わない。
だが悠斗と目が合うと、わずかにうなずいた。
悠斗は困ったように息を吐いた。
「必要なときに声を掛けただけです」
「そういう人が一番、まとめ役になるんですよ」
美咲が言う。
悠斗は返事をせず、映像へ視線を戻した。
冬域の空撮映像。
雪原の奥へ、低い建物が一瞬だけ映る。
高い壁に囲まれている。
観光施設には見えない。
悠斗が目を細めた直後、映像は春域へ戻った。
「今、冬域に建物が映りませんでした?」
悠斗が尋ねる。
直人が画面を見る。
「どのあたりですか」
「雪原の奥です。壁で囲まれていました」
美咲が撮影映像を戻そうとする。
「私、動画を撮ってました」
カメラの画面を操作する。
春域。
夏域。
秋域。
冬域。
小型飛行機。
温泉街。
問題の空撮部分だけ、映像が乱れている。
「ここだけ見えない」
美咲が画面を悠斗へ見せる。
細かな乱れが続き、次の場面へ切り替わる。
「機器の故障では?」
直人がカメラを受け取り、確認する。
「前後は正常です。特定の場面だけ記録できていない」
陽菜が不安そうに壁を見る。
「撮影禁止の場所だったとか」
「そうかもしれません」
悠斗は答えた。
だが、もし撮影禁止なら案内映像へ入れる必要がない。
見間違いだった可能性もある。
今は判断できない。
美咲はカメラを戻し、肩をすくめた。
「到着したら聞いてみましょう」
「回答権限がありません、と言われそうですが」
直人が言う。
美咲が笑う。
「高瀬さん、もう言い方を覚えたんですね」
移動開始から三時間ほど経ったころ、五人は一度、個室へ戻った。
陽菜は寝台へ横になった。
眠るつもりはなかった。
目を閉じたのは、ほんの少しだけだった。
気づくと、知らない場所に立っていた。
長い通路。
足元は硬い。
両手で重い箱を抱えている。
腕が震えている。
前を歩く人の背中が見える。
顔は見えない。
誰かが怒鳴った。
意味の分からない言葉。
それなのに、陽菜には何を言われたのか分かった。
遅い。
止まるな。
役に立たなければ捨てる。
陽菜は歩こうとした。
足が動かない。
背中に衝撃が走る。
箱を落とす。
硬い音。
また怒鳴り声。
陽菜は耳を塞いだ。
声は頭の中へ直接響いた。
目を覚ました。
寝台の上で上半身を起こす。
呼吸が速い。
額に汗がにじんでいる。
個室は静かだった。
壁には、心拍上昇と表示されている。
「夢……」
陽菜は鳥の飾りを握った。
子どものころから、似た夢を見ることがあった。
重いものを運ぶ夢。
怒鳴られる夢。
どこかへ閉じ込められる夢。
けれど、今日の夢は今までよりもはっきりしていた。
床の硬さ。
箱の重さ。
背中の痛み。
陽菜は寝台から降りた。
一人で部屋にいることが、急に怖くなった。
談話室へ戻ると、蓮が一人で座っていた。
壁へ映る四季星の地図を見つめている。
陽菜は入口で立ち止まった。
声を掛けるか迷っていると、蓮が先に顔を向けた。
「眠れませんでしたか」
陽菜は驚く。
「分かります?」
「顔に出ています」
陽菜は頬へ触れた。
「少し寝たんですけど、変な夢を見て」
蓮の視線が陽菜の手元へ落ちる。
鳥の飾りを強く握っている。
「どんな夢ですか」
「知らない場所で、重い箱を運んでました。誰かにずっと怒鳴られて、転んだら背中を叩かれて」
蓮の指が止まった。
陽菜はその変化を見た。
「真田さんも、見たことありますか」
蓮はすぐには答えない。
地図の冬域へ視線を戻す。
「似た夢を見ます」
陽菜は蓮の向かいへ座った。
「いつから?」
「昔からです」
「私もです。でも、今日のはすごくはっきりしてて」
「自分も、四季星の招待状が届いてから、夢が近くなりました」
「近く?」
「思い出みたいに感じる」
陽菜は両腕を抱いた。
「経験したことないのに?」
蓮はうなずく。
「ないはずです」
談話室の天井が、一度だけ点滅した。
蓮がすぐに見上げる。
陽菜もつられて顔を上げた。
「今、光りましたよね」
「見られている」
「健康記録じゃないですか?」
「かもしれません」
蓮は立ち上がり、天井の真下へ移動した。
何もない。
触れられる高さでもない。
「ほかの人にも話したほうがいいでしょうか」
陽菜が尋ねる。
蓮は少し考えた。
「今は、まだ」
「どうして?」
「不安にさせるだけかもしれない」
「でも、もし同じ夢を見てる人がいたら」
蓮は陽菜を見る。
陽菜の目には不安がある。
それでも逃げるより、確かめたいという気持ちのほうが強く見えた。
蓮は椅子へ戻る。
「到着してから、話しましょう」
「二人で?」
「必要なら、全員に」
陽菜はうなずいた。
そのとき、談話室の扉が開いた。
悠斗が入ってくる。
二人を見て、歩みを止めた。
「何かありました?」
陽菜は蓮を見る。
蓮は少しだけ首を振った。
陽菜は鳥の飾りから手を離した。
「眠れなかっただけです」
悠斗は二人の表情を見比べた。
聞きたいことがある顔をしていた。
しかし無理には尋ねなかった。
「到着まで、あと二時間くらいです。共用室に飲み物が用意されていました」
「ありがとうございます」
陽菜が立ち上がる。
蓮も続いた。
悠斗は二人の後ろを歩きながら、点滅した天井へ一度だけ目を向けた。
到着まで残り一時間。
五人は健康確認用の部屋へ案内された。
床から五つの椅子が現れる。
背もたれが、座った者の体に合わせて形を変える。
美咲が先に座った。
「春域の入眠施設みたい」
「こちらは簡易型です」
フィルの立体映像が答える。
「呼吸、心拍、筋肉の緊張を確認し、到着前の体調を整えます」
直人は椅子の表面を指で押す。
「記録される情報は?」
「健康状態と、必要な調整内容です」
「感情も含みますか」
「不安や恐怖は、身体反応として確認します」
直人は納得していない。
それでも椅子へ座った。
悠斗も腰を下ろす。
椅子の表面が背中と肩へ沿う。
きつく固定されることはない。
軽く支えられているだけなのに、体から力が抜けていく。
陽菜は両手を膝へ置き、呼吸を整えている。
蓮は目を閉じない。
美咲は座ってすぐ、肩を落とした。
「これ、寝そう」
「眠っても問題ありません」
フィルが答える。
「到着前に起こします」
椅子が呼吸に合わせて、わずかに揺れ始める。
吸う。
背中が持ち上がる。
吐く。
肩の周囲が緩む。
遠くから水の音が聞こえる。
風が葉を撫でる音。
鳥に近い生き物の声。
悠斗は目を閉じた。
本物の音ではない。
そう分かっている。
それでも、体は本物として受け取っている。
胸の緊張が少しずつほどけていく。
意識が沈みかけた瞬間、天井に数字が浮かんだ。
朝倉悠斗。
安心反応、上昇。
悠斗は目を開けた。
数字は消える。
隣では美咲が眠っている。
陽菜も目を閉じている。
直人は半分だけ目を開け、椅子の動きを確認している。
蓮は天井を見ていた。
悠斗と視線が合う。
蓮も数字を見たのだろうか。
「今、何か表示されましたか」
悠斗が尋ねる。
フィルの映像が現れる。
「健康確認の数値です」
「安心反応とは?」
「心身の緊張が緩和された状態です」
「その数値を保存しているんですか」
「旅行中の環境調整に利用します」
「ほかにも使いますか」
フィルの頬の模様が一度明滅した。
「必要な範囲で利用します」
直人が目を開ける。
「具体的に答えてください」
「皆さんの快適性向上に必要な範囲です」
「それ以外には?」
「回答権限がありません」
直人は体を起こそうとした。
椅子は抵抗せず、すぐに形を戻す。
「高瀬さん」
悠斗が声を掛ける。
直人は悠斗を見る。
「今、到着前です。答えを得るなら、担当者と直接会ってからのほうがいい」
直人は数秒黙った。
やがて背もたれへ戻る。
「分かりました」
声は落ち着いていた。
しかし指先は、椅子の縁を強く握っている。
美咲が目を開けた。
「何かありました?」
「健康確認の説明を受けていました」
悠斗が答える。
美咲は眠そうに目をこする。
「私、寝てました?」
「少し」
「写真撮られてない?」
「撮ってません」
陽菜も目を開ける。
蓮は最後まで眠らなかった。
到着まで残り十分。
展望室の壁が透き通る。
遠くに、一つの星が見えた。
最初は小さな球体だった。
UFOが近づくにつれ、表面の様子がはっきりしていく。
四つの巨大地域。
春域には花畑と果樹園が広がり、穏やかな風が大地を流れている。
夏域には湖と川が輝き、水辺に建物が並んでいる。
秋域には農園と森林が続き、広い市場の屋根が見える。
冬域は雪原と山岳地帯に覆われている。
地域の境界は入り組んでいる。
それでも季節は混ざっていない。
春域から舞い上がった花びらは、夏域との境界へ近づくと風に押し戻される。
冬域の雪は、秋域へ入る前に空中で消える。
陽菜が壁へ両手をついた。
「本当に四つある」
美咲はカメラを構え、何度も撮影する。
「全部一枚に入らない」
「近づけば地域ごとに見えるでしょう」
直人は招待状の地図と星を見比べている。
悠斗は冬域へ視線を向けた。
雪原の一部に、高い壁で囲まれた場所が見える。
観光案内で一瞬だけ映った建物。
すぐに雲の影へ隠れた。
「朝倉さん」
美咲に呼ばれ、悠斗は顔を向ける。
「一緒に撮りましょう」
「また?」
「地球を離れたときと、到着したとき。二枚あったほうがいいです」
陽菜はすでに美咲の隣へ立っている。
直人も断る様子はない。
蓮は少し離れたところにいたが、陽菜が手招きすると近づいた。
五人は四季星を背に並ぶ。
今度は最初の写真ほど間が空かなかった。
美咲がカメラを台へ載せる。
「十秒」
走って戻る。
陽菜が美咲の腕をつかむ。
直人が中央へ押される。
蓮が後ろへ下がろうとすると、悠斗が肩へ手を添えて同じ位置へ戻した。
蓮は驚いたように悠斗を見る。
悠斗はカメラを指差した。
「全員で」
蓮は何も言わず、そこへ残った。
撮影音が鳴る。
美咲が写真を確認する。
「さっきよりいい」
陽菜が画面をのぞく。
「ちょっと仲良くなってる」
直人も写真を見る。
「まだ数時間です」
「数時間でも変わりますよ」
美咲が言う。
蓮は画面の端にいる自分を見つめたあと、視線を四季星へ戻した。
悠斗は写真の中の五人を見る。
初対面の緊張は残っている。
それでも、最初の写真より肩の距離が近い。
一か月後。
同じ並びで撮るとき、どんな顔をしているだろう。
美咲が話していた言葉を思い出す。
悠斗は四季星を見た。
楽しみだと思った。
同時に、胸の奥へ小さな違和感が残った。
自分たちは、なぜ選ばれたのか。
答えはまだない。
UFOが春域へ入る。
眼下に花畑が広がる。
遠くから見ると一枚の絨毯のようだった景色が、近づくにつれ無数の花へ分かれていく。
果樹園の木々には、地球では見たことのない形の実がなっている。
空中には小型の乗り物が浮かび、地上の道を四季星人たちが歩いていた。
着陸地点らしい広場には、大勢の四季星人が集まっている。
手に細長い飾りを持ち、五人へ向けて振っている。
広場の中央に、地球の文字が浮かんでいた。
四季星へようこそ。
美咲が声に出して読む。
「本当に来たんだ」
陽菜は何度もうなずく。
直人は書類ケースを閉じる。
蓮は広場ではなく、遠くの建物を見ている。
悠斗は四人の顔を順番に見た。
美咲は期待を隠さず笑っている。
直人は慎重な目で着陸地点を観察している。
陽菜は窓へ張り付きそうなほど身を乗り出している。
蓮は静かだが、視線だけは景色を追っている。
役割を決めたわけではない。
それでも、この五人で一か月を過ごすことになる。
UFOが高度を下げる。
広場の姿が近づく。
花の香りが、まだ扉の閉じている機内へ流れ込んだ。
「外の空気ですか?」
陽菜が尋ねる。
「着陸地点の空気を、事前に機内へ取り込んでいます」
フィルの声が答える。
「皆さんの体が環境へ慣れるよう、少しずつ調整しています」
美咲が深く息を吸う。
「いい匂い」
天井へ数字が浮かぶ。
藤原美咲。
期待反応、上昇。
美咲は気づいていない。
悠斗だけが、その表示を見た。
次に陽菜の名前が浮かぶ。
結城陽菜。
安心反応、上昇。
数字はすぐに消えた。
悠斗はフィルの立体映像を見る。
「今の記録は?」
フィルは悠斗へ顔を向ける。
「到着環境への反応です」
「楽しみにしていることまで記録するんですか」
「皆さまへ適切なおもてなしを提供するためです」
説明は自然だった。
間違っているようには聞こえない。
だからこそ、悠斗はそれ以上尋ねなかった。
着陸の衝撃は、ほとんどなかった。
床へ軽い振動が伝わり、すぐに止まる。
扉の前へフィルの立体映像が現れた。
「朝倉悠斗さん」
悠斗を見る。
「藤原美咲さん」
美咲が胸元へ手を当てる。
「高瀬直人さん」
直人が軽く頭を下げる。
「結城陽菜さん」
陽菜が姿勢を正す。
「真田蓮さん」
蓮が静かに視線を上げる。
一人ずつ名前が呼ばれた。
「四季星へのご到着を、心より歓迎いたします」
扉の中央に細い線が走る。
左右へゆっくり開いていく。
外から柔らかな風が流れ込む。
花の香り。
果実の甘い匂い。
遠くで流れる水の音。
広場には四季星人たちが並んでいる。
地球人に近い姿。
耳の後ろにある葉のような器官。
頬から首へ続く模様。
誰もが笑顔を浮かべ、五人へ手を振っていた。
先頭に立つ四季星人が、一歩前へ出る。
フィルとは別の人物だった。
体格は小柄で、胸元に四つの季節を表した飾りを付けている。
「地球からお越しの皆さん」
通訳された声が、広場へ響く。
「お待ちしておりました」
四季星人たちが一斉に頭を下げる。
美咲が小さく声を漏らした。
「すごい歓迎」
陽菜も驚いたまま、何度も頭を下げる。
直人は周囲の人数や配置を確認している。
蓮は扉の外へ一歩出る前に、足元を見た。
花びらが一枚、階段の上へ落ちている。
蓮はそれを避けるように足を動かした。
悠斗が先頭に立つ。
振り返り、四人を見る。
「行きましょう」
美咲がうなずく。
陽菜が続く。
直人は書類ケースを持ち直す。
蓮も一歩踏み出す。
五人は並んでUFOを降りた。
広場へ足をつけた瞬間、四季星人たちの持つ飾りが揺れた。
花びらが舞い上がる。
楽器に似た音が鳴り始める。
高く澄んだ音。
低く響く音。
風が重なり、広場全体が一つの呼吸をしているようだった。
美咲はカメラを構える。
陽菜は花びらを両手で受けようとする。
直人は案内役へ質問する機会をうかがっている。
蓮は大勢の四季星人の中に、笑っていない一人を見つけた。
列の最も後ろ。
作業着のような服を着た小柄な人物。
その人物は蓮と目が合うと、すぐに顔を伏せた。
蓮は足を止める。
悠斗が気づき、振り返る。
「どうしました?」
蓮は列の後ろを見る。
そこにはもう、誰もいなかった。
「何でもないです」
蓮は歩き出した。
悠斗は少しだけその場を見たあと、蓮の隣へ並んだ。
先頭の案内役が両腕を広げる。
「これより皆さんには、一年分の季節を一か月で巡っていただきます」
春域の花畑。
夏域の湖と温泉街。
秋域の農園と市場。
冬域の雪原と山々。
案内役が言葉を続けるたび、広場の周囲へ映像が浮かぶ。
美咲の目が輝く。
陽菜が小さく声を上げる。
直人も映像へ目を向ける。
蓮は黙っている。
悠斗は案内役の笑顔を見る。
丁寧な言葉。
整えられた広場。
五人の好みに合わせた歓迎。
何もかもが完璧だった。
完璧すぎるほどに。
「皆さんの疲れ、不安、悩みは、すべて私たちにお預けください」
案内役が胸元へ手を添える。
「どのような小さな要望にも、お応えいたします」
広場の四季星人たちが、もう一度頭を下げる。
「どうぞ、安心してお過ごしください」
安心。
その言葉に合わせるように、広場の端で小さな機器が点滅した。
悠斗はそれを見た。
数字が一瞬だけ浮かぶ。
五名総合。
安心反応、記録開始。
悠斗が目を凝らしたときには、数字は消えていた。
「朝倉さん?」
美咲が呼ぶ。
「どうかしました?」
悠斗は機器から視線を外した。
四人が自分を見ている。
美咲は期待に満ちた顔。
陽菜は今にも走り出しそうな顔。
直人は疑問を抱えたまま周囲を観察している。
蓮は静かに悠斗の返事を待っている。
悠斗は花畑の先を見た。
丸い屋根の建物。
果樹園。
遠くへ続く道。
ここから一か月。
四つの季節を巡る旅が始まる。
疑問はある。
不安も残っている。
それでも、今は進むしかない。
「何でもありません」
悠斗は答えた。
「行きましょう」
美咲が最初に笑う。
「はい。まずは春域ですね」
陽菜が大きくうなずく。
「どんな生き物がいるか見たいです」
直人は案内役へ近づく。
「移動中に確認できなかった点があります」
案内役は笑顔を崩さない。
「もちろん、順番にお答えいたします」
蓮は三人の後ろを歩き始めた。
悠斗もその隣へ並ぶ。
五人の頭上を、鳥に似た生き物が飛んでいく。
細い声で鳴き、花畑へ降りていった。
陽菜が振り返る。
「見ました?」
「見ました」
蓮が答える。
陽菜はうれしそうに笑い、前へ走る。
足元の花を踏みそうになり、蓮が腕を伸ばした。
陽菜のリュックを軽くつかみ、歩道へ戻す。
「あっ」
「花があります」
「すみません。ありがとうございます」
蓮はすぐに手を離した。
陽菜は歩調を落とし、花を避けて進む。
美咲がその様子を見て笑う。
「真田さん、ちゃんと見てるんですね」
蓮は返事をしない。
悠斗は口元を少し緩めた。
冷静に周囲を見る者。
誰とでも話せる者。
疑問を見逃さない者。
未知のものへ迷わず近づく者。
口数は少なくても、誰かを放っておけない者。
初めて顔を合わせたばかりの五人。
まだ互いのことを、何も知らない。
四季星のことも。
この旅行の本当の意味も。
なぜ自分たちが選ばれたのかも。
春域の風が、五人の間を通り抜ける。
花の香りが遠くまで続いている。
背後では、観光客専用UFOの扉が静かに閉じた。
戻る道を隠すように。
広場の表示が切り替わる。
歓迎手続き、完了。
五名の記録を開始します。
その文字を見た者はいなかった。
五人は案内役のあとを歩いていく。
夢のような一か月の旅が、静かに幕を開けた。
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第3話、丁寧に読ませていただきました🌙 五人がそれぞれ違う理由と不安を抱えながら、それでも四季星へ足を踏み入れるまでの流れが本当に自然で、引き込まれました。特に陽菜ちゃんの「招待状が家族に見えない」とか、蓮くんの夢の話が個人的に刺さります…。それぞれの過去が、この旅とどう絡んでくるのか、すごく気になります。 そしていよいよ春域に到着…「安心反応、記録開始」の一文、ゾッとしました。完璧すぎる歓迎の裏に何かがある予感。この不穏な空気感、大好きです。 続き、楽しみにしてます🖤