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前世は巫女見習いで生贄として終えて、今世は初めて出逢った男の人の妻として始まる人生ってなんなんでしょう? いえ、悪くはないどころか心トキメク私がいるのですが。
というよりは生前の姿のままである事を思うと、これは異世界転移かもしれません。大昔には別の世から渡って来られた人々も多くいたとか。私がそうであっても不思議ではないですね。
昨日はとてもドキドキした1日でした。
あの後も恥ずかしすぎて、部屋に逃げちゃったほどです。
何度か呼びにきて下さったダリル様に改めてお会いするとやはりドキドキして、せっかく用意してくださった夕飯もあまり味が分からなかったほどです。
今日は早起きして、ダリル様が目覚める前に朝食の準備です。
嫁いだ先で旦那様にお世話していただくばかりの妻になるわけには参りませんから。
いつもの服に着替えて、部屋を出ますと、階下よりパンの焼ける香りがしてきました。
もしやと思い、台所をそ〜っと覗くと、エプロン姿のダリル様が既に朝食の準備をされておりました。またしても私は失敗したのです。
「おはよう、ございます……」
柱の陰に隠れて挨拶する私。失敗したことと、昨日からの気恥ずかしさで出ていけません。
「ああ、おはよう。良く眠れたか? サツキ」
ああ、そんな。名前を呼ばれただけで胸がキュンとして痺れてしまう。
「は、はい。ご心配をお掛けしてすみません。もう大丈夫です」
そう言ってせめて柱の陰から出るのが精一杯。
「いま朝食が出来上がる。朝はいつもパンと目玉焼きなのだが、白米の方がよかったか?」
「い、いえ、私は……ダリル様がご用意してくださるのなら、なんでも……もにょもにょ……」
最後の方はまともに言葉に出来ませんでした……ああっ、なんてダメな妻なのでしょう。
「うん? そうか。まあ、どのみち今日はこれで、な。さあ、いただこう。夫婦2人で」
顔を覆いしゃがみ込んでしまう私。わざとでしょうか? どうしてこうも……。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「何あれ。あれ偽物じゃない? あのダリル」
「2日続けての女性を連れてのデート……やはりダリルさんのなりすましですか?」
早朝から店に忍び込み、暫定夫婦を覗き見るフィナとジョイス。ダリルのかつての客たちは店への自由な出入りが許可されており、渡された鍵でコソコソと入ってきていた。
「ダリルは本物で、今あのふたりは愛し合って結婚するんだよっ」
覗き魔たちの間にミーナが割り込みそう言う。
「ええっ? ミーナちゃん、何でそう思うの⁉︎」
「ミーナ嬢はまだ5歳なのにそんなことまで分かるのですか? しかしそれにしてもまさか……」
激しく動揺しつつも強く否定すれば嫉妬の感情を認めてしまうようで質問という形で誤魔化すフィナと、純粋に疑問をぶつけるジョイス。
ミーナはそのどちらともが面白く、だけれども悪戯に遊ぶつもりもなくありのまま答える。
「昨日ダリルに聞いたものっ」
必死に身を縮める巨人は「そうなんですね」と納得した風ではあったが──エルフは白く燃え尽きた。