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二月最後の金曜日。
恵菜は仕事を終えて、ロッカールームで私服に着替えを済ませた後、スマートフォンをチェックすると、純からのメッセージが受信されていた。
『恵菜さん、今月もお疲れさま。明日から三月。早いね』
純と初めて会ってから、二ヶ月が過ぎ、月日の流れが早いのを実感する恵菜。
彼は毎日、メッセージを送ってくれるけど、恵菜に気を遣っているのか、早瀬の人間の事には一切触れてこない。
かつての義母に会った後、無様な姿を純に見られた恵菜は、以来、彼に対して、よそよそしい対応をしたまま。
恵菜の純への気持ちは、好意があるのはもちろん、嬉しいんだけど、苦しい。
彼女は返信ボタンをタップし、彼にメッセージを打ち込む。
『谷岡さん、お疲れさまです。今月も今日で終わりなんて、あっという間ですね』
こんな素っ気ない文しか打てない自分が、無性に腹立たしいし、恨めしい。
恵菜は小さくため息をついた後、送信ボタンをタップし、帰り支度をして、仕事場を出た。
彼女を悩ませていた、見知らぬ携帯電話番号からの着信は、ここ数日、一度も履歴が残っていない。
いくらかホッとした恵菜だったけど、あと数十メートルでパークの正門に辿り着く時、バッグの中のスマートフォンが、規則正しくリズムを刻み始めた。
(誰だろう? 谷岡さん……かな? 奈美かな?)
恵菜が普段、メッセージアプリを使って連絡を取るのは、純か親友の奈美くらいしかいない。
ごくたまに両親と連絡を取る事もあるけど、それは帰りが遅くなる時だったり、父に連絡をしたのは、いつか恵菜の実家に、元夫の早瀬勇人が待ち伏せしていた時くらいだ。
彼女は道の端に寄り、立ち止まってスマートフォンを取り出す。
けれど、通知センターに表示されているのは、純でも奈美でもなく、両親でもない、見知らぬIDだった。
「だ……誰……?」
迷惑メッセージの類か、と一瞬考えたけど、通知欄と一緒に表示されている見覚えのあるアイコンに、恵菜は徐々に表情を濁らせていく。
「まさか……」
恵菜の、スマートフォンを持つ手が、小刻みに震え出し、おずおずと通知センターのダイアログをタップした。