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「まさかそれはこの街で引き取るということか?」
「うん、そう。今ならそれも、出来る」
そうか、もうそんな所まで来ているのか。
「ならいいだろう。他でもないマイの頼みだ。これからすぐに行くのか?」
「うーん。せっかく、だから、もう少しだけ、居たいかな」
そう言ってマイはダリルに微笑む。
「そうだな。たまには街を見るのもいいだろう。なら一緒に外を歩いてみるか」
優しく誘い、ダリルはマイの手を取り店を出る。マイはダリルの手を握り返して指と指を絡めて離れてしまわないように持ち替えた。ダリルはその手を引き寄せ、寄り添うように歩く。
仕事中に何気なく見た窓の外にそんなふたりを見つけて、ジョイスが固まる。持っていた鉛筆を落としたのにも気づいていない。
マイは、見るもの全てに興味深そうな視線を投げている。
冒険者ギルドではたくさんの人が出入りしていて、何する所なのかと聞いたり、市場では山にはない魚などに興味津々だ。
孤児院ではレイナに会いに来ていたトマスがこちらに気づいて手を振る。ダリルは手を軽く挙げただけだが、となりのマイはブンブンと手を振り返している。
街並みを歩いて石畳の道、水路や街灯の一本までマイには新鮮だ。
東で狩人たちの宿舎の前を通りかかった時にはフィナがふたりを見つけてその仲睦まじい雰囲気にあわあわしていた。
たっぷり散歩してきたダリルとマイはメインストリートを通る。ギルド前に差し掛かり何となく中の方に目をやると、狩人の先輩と併設の酒場でやけ酒ならぬやけミルクをしているエルフがいた。
やがてそうして店の前に帰り着くところで、ふたりはビリーとミーナのペアに出逢った。
ビリーがマイに釘づけになっているが、ミーナのローキックに気を取り直して──誤魔化すようにミーナの頭を撫で出した。
「ミーナ、お久しぶり」
「お久しぶり、マイちゃんは元気にしてた?」
「うん。とっても、元気よ」
「ミーナ? 知り合いなのかい?」
ミーナはそうだよっと答えて、マイと少しの会話をして分かれた。
「ミーナ、相変わらず。癒される」
まあ、お互い様だろうなと思いつつ、ダリルは首肯する。
店に入ってもその手は離さず、握ったままだ。お互いにその存在を確かめるかのように。その日はそうしたまま過ごして、椅子に座ったまま眠りこけてふたりして机の上によだれの池を作ってしまった。