「ダリルさま、ありがとう」
頬についたよだれの跡を甲斐甲斐しく拭いてくれているダリルにそう礼をいう。
ダリルもそうする事が嫌いではなく嬉しいようで笑顔だ。
「マイとこうして過ごせた。それは俺も嬉しい事だ。では朝飯を済ませてから行くか」
ダリル謹製のトーストと目玉焼き、昨日の紅茶は今日はミルクティーで。それぞれに一枚ずつ花弁が載せられている。
用意されたささやかな食事に喜び「うん、とても、美味しい」と言うマイはやはり手に持つこともなく、それでもマイの皿からは少しずつ減り最後は空になってしまった。
そしてマイは懐から小さな丸い石を2つ取り出すと。胸の前でパンっと手を合わせた。
次の瞬間には2人は雪が吹雪く山の中にいて、目の前の小屋に入った。
小屋の中は暖かく、見れば囲炉裏に火がついたままだ。
その傍には巫女装束の少女が寝かされている。
少し服が破れていたりするが、身体に外傷は見られず、寝息も穏やかなものだ。というより聞こえてこない、まるで死んでるかのように。
「見つけた時は、どうしようもない、状態だった。貴重な、宝具を、身につけていたの。触媒にして、形はどうあれ、助けた。今はこの山から、出るまでは、寝ているように、しているの」
「そうか、それは偉いな」
ダリルがマイの頭を優しく撫でくりまわす。マイは蕩けそうな顔で受け入れている。
「この子、この街で、生かしてあげて」
今ダリルの店には誰もいない。今日は店は休業にしている。
その店の奥で巫女少女は寝かされていて、目覚めるまでをつきっきりでダリルは椅子に座って本を読んでいる。
それは、この少女を連れて店に入ったときにカランカランと鐘の音がしたからだ。そして少女のそばには一頭の喋る白狼がいる。
白狼は少女に寄り添っている。
次第に夜が深まり、辺りには人気もなくなる時間に少女は目を覚ました。
「あれ……ここは?」
歳の割に落ち着いた声音で少女はそう呟く。
「ここはそなたが入った山より遠きところだ。そなたの願いは聞き届けられ、その結果としてこの場にいる」
口を開いたのは白狼だ。
白狼はこの子の内情を理解しており、それに合わせた形にて説明する。
「あなたは、あの時の……そうですか。ということはここは既にあの世なのですね。私の命は無駄にはならなかったのですね。良かった……」
(なるほど、巫女の考えはわからん。後で白狼に聞いておくか)
ダリルにとって知らない赤の他人の思考など理解できるはずもない。
「ここは、そうだな、争いもなく平和が続く街。お前の第二の人生の舞台だ」
「争いがない、平和──つまりここは極楽もしくは天国なのですね。そうするとあなたは仏様? それとも天使とかになるのでしょうか?」
ただ、この少女の意識が死を実感していることについてのみ、ダリルは理解し、少女の様子を観察する。