扉が開きチリンチリンと鈴の音がする。
「あ? チリンチリン?」
ダリルは訝しそうに扉の方をみる。
そこには白のTシャツにデニム、紺の薄い半袖シャツを羽織った、どこかこの世界のものではない服装の人物がいた。背丈は170cmほどか、糸目で茶色のショートヘアのスラっとした男だ。
「ナツか。珍しいな」
「ええ。訳あって抜けてきました」
この男、普段は南の魔の森の中にある小屋で過ごしている。
不可視の小屋は誰に見つかることもなく、このナツという青年の存在を知るものは少ない。
「あっ! ナツ! おひさ〜っ!」
「ん? ミーナですか。久しぶりですね。耳と尻尾まで生やして、そんなナリでも君は変わりませんね」
ナツという青年の存在を知るものは少ない。
「ナツは今日はどうしたのっ? とうとうあの森に飽きちゃった?」
「飽きるもなにもないことはミーナもご存知でしょう。今日は久方ぶりにお仕事ですよ」
ナツとミーナは昔馴染みだ。もちろん、ひだまりの丘で再誕したミーナではなくその前のミーナだ。
「ダリル様、近々トレントが倒れます。そして死者の塊が、この街へと向かってくるでしょう」
ナツは占い師である。
もちろんダリルに様付けしたり、そもそも知り合いという時点でただの占い師ではない。
彼は不可視の小屋でいつもハンモックに揺られて過ごしている。彼の住む小屋は不可視で不可侵であり、故に魔獣も時折現れるあの森にあって警戒の必要がない。いつだって揺られて過ごしている。
朝も昼も夜も彼にはない。肉体というのはこうして誰かとコンタクトをとるためにのみ使われる。そしてこの肉体も生きてはいない。かといって死体に防腐処理を施したもの、と言うほどどうしようもない訳ではない。
かの不死の男にしてみれば羨ましいだろう。ナツのそのかりそめの肉体は腐らないのだ。この世界においての理外の干渉によるものだ。
そして本人はちゃんと死んでいて、生き返りはしない。
かつて山伏少女のマイはサツキの魂を現世に干渉できる様に形作り、保存する術を行使したが、それとも違う。
ナツの魂はあり方を少し変えてはいるが、世界に不干渉だ。容れ物の肉体をさながら人形のように遺している。それも自由に動かす事の出来るものとして。オンオフを好きに出来る。
不自由といえばこういった用事の時以外にはナツは不可視で不可侵の小屋に囚われていて、その瞬間まで外に出る事が叶わないことだろうか。
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