その用事が今回ダリルのもとを訪れた内容である。
いつかフィナが対峙して敗走することになったトレントは、現存する魔獣の中で最古で最大のものである。
トレントがその悠久の時を過ごして取り込み続けたこの世界の魔力は計り知れず、フィナと共にいたロズウェルのスキルを持ってしても数分の間のみ動きを止めるのが精一杯だった。
そのトレントが倒れる。
それはダリルをして予想だにしなかった事である。
そして、死者の塊。
そう言った現時点で未確定の未来の情報を俯瞰的に映したものがナツには受信出来てしまうのだ。
そしてその内容を伝える、という一点においてのみ、小屋はその堅いロックを解除してくれる。
「ナツ、トレントのことは分かった。お前がそう言うならそうなのだろう。だが死者の塊とはなんだ?」
ダリルはナツの言葉を疑わない。彼はそう言う存在なのだと知っているからだ。だが何を受信したのかはわからない。それはダリルには出来ない事だから。
「死して死にきれない、そういうモノ。残念ながらそれがなんなのかは分かりません。その姿さえも」
トレントの崩壊までは見てとれたのだ。1話だけを見せられた様なもので、そこで次回予告が入った。予告された内容が自身に届けられるかは不明だ。不定期のランダムなサブスクリプションといったところか。
「それはこの街を襲うのか?」
「それも分かりません。最後の方は映像ではなく認識だけでしたので」
これはこれこれこういうものである。という事だけ。
全てが見たかのように知らされるならこれほど分かりやすい事はない。残念ながらそこまで便利ではないのだ。
「とはいえこうしてナツを使って知らせて来たということは、そうでないと対処出来ないという事か」
「そういうことかと」
知らなければ不都合が起き、知ってさえいれば対処出来るのだと。
「ダリル様、こちらをお納めください」
ナツが手渡してきたものは、小さな飴玉だった。
「お前がこれを……?」
「『今回はイレギュラーである、死への渇望など聞き届けるものではない。だが報酬はなくてはならないな』とのことでした」
「そうか──気を遣わせたのかもしれんな」
「ダリル様。ここへ来るまで、この世界を感じてきましたが、ずいぶんと進んだものです。今回の出来事は起爆剤となりうるかもしれません」
せっせと火薬を詰め込み仕込みをしてあともう少しと言うところに現れた起爆剤。それが作動すれば後には──。
「待ち望んだ結果があればいいな」
「……はい」
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