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保谷東
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美花の身体を、抱きしめている状態の圭。
(彼女を、強く抱きしめたら…………儚く消えてしまいそうだな……)
細くも、丸みを帯びた曲線を描いている彼女の身体を抱き留めたまま、圭は朧気に考える。
「おっ…………おにーさんごめん。思いっきりコケちゃったね……」
腕の中で、美花が身じろぎさせていると、彼は、我に返った。
「あっ…………す……すまない……」
慌てて美花の身体から腕を離すと、彼女も彼から抱きしめられた格好になって恥ずかしいのか、頬をうっすらと桜色に染めらせている。
咄嗟に彼女を抱きしめた事で、圭も顔を紅潮させていた。
「さて、ボートにも乗った事だし、他にリクエストはあるか?」
「う〜ん…………」
圭が美花を見下ろしながら様子を伺うと、彼女は遠くの空に視線を伝わせて、逡巡している。
「…………今日は……おにーさんと、思いがけず少しでも楽しい時間を過ごせたから、お腹いっぱい、胸いっぱい、かなぁ?」
美花はパッチリとした瞳を細くさせ、唇を綻ばせている。
「…………そうか」
彼女が言っている事は、恐らく、今日はもう帰る、って事なのだろう。
時間はまだ十五時前、太陽が高い位置にある時間帯。
今まで圭が関わってきた大概の女たちは、彼の問いに『買い物に付き合って』と異口同音に答えると、デパートに寄り、ハイクラスブランドのジュエリーをねだられ、買い物の後、圭は高級ホテルで女を抱く、というパターン。
美花の答えは、彼にとって、考えもしなかった。
(彼女は……今まで見てきた女たちとは…………まるで違う……)
圭は、淡々と答えつつも、落胆してしまい、後頭部に手をやりながら撫で付ける。
だが、せっかく美花とデートらしき状況になっているのに、このままヤキモキしているのは、自分らしくない。
彼は俯き加減でフウッと吐息を零した後、顔を上げ、美花を射抜いた。
「だったら、君の自宅まで送るよ」