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保谷東
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「…………え?」
圭の申し出に、美花がクリッとした瞳を、さらに丸くさせている。
「送るって…………おにーさん、まだ全然明るい時間だよ? 一人で帰れるし、だいじょ──」
「いや……俺が…………送りたいんだ」
彼女の言葉を遮るように、落ち着きを纏わせた声音で、圭が静かに食い下がる。
目力が強い、と言われる圭の視線に、美花が言葉をゴクリと呑み込んでいるように見えた。
躊躇う表情を覗かせている彼女が、何かを言いたげに、唇を微かに震わせている。
「じゃっ…………じゃあ……お言葉に甘えて……」
美花がペコリと軽く会釈をした瞬間、圭が白皙の手を取った。
「え……? おにーさん……?」
圭がいきなり手を繋いできた事に、美花は、かなり驚いたのか大きな瞳を瞬かせている。
「嫌だったら、振り解いてくれていい。しかし、君の手は…………冷えてるな……」
「そっ……そうかなぁ?」
彼女は圭の手に繋がれたまま、歩き続けている。
振り解こうとしない様子だと、美花は嫌がっていないのだろう。
もうすぐ夏本番になるというのに、彼女の手が、季節外れのように冷たい。
(唐突過ぎただろうか? だが…………拒否されなくて良かった……)
安心したのか、圭は思わず長く息を吐き出すと、美花が上目遣いで彼を覗き込む。
「おにーさん、何だか今日は…………様子が……違うね……」
「そっ……そんな事はないと思うが……」
緑豊かな景観の中を、二人は、ゆっくりと歩みを進めていく。
しばらく歩いていると、遠くに、国営公園のゲートが見えてきた。
(彼女とのちょっとしたデートも、もう少しで終わりか。だったら……)
ゲートを通り抜けた圭と美花は立ち止まり、どちらからともなく向かい合う。
圭は、繋いでいた手を離すと、彼女の薄茶の瞳を、しっかりと捉えた。
「…………美花さん」