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『恵菜センパイ、お久しぶりです』
恵菜の事を『センパイ』呼びをするのは、一人しかいない。
勇人の不倫相手でもあり、彼の野球部時代のマネージャーだった、一年後輩の汐田理穂。
(…………この女……何なの?)
警戒しながらも、恵菜は理穂に返信する。
『お久しぶりですね。汐田さん』
敢えて後輩に敬語を使って送信した恵菜だったけど、待ってましたとばかりに、速攻で既読が付いた。
『恵菜センパイ、今、立川の大きな工業エリアで仕事しているんですよね?』
『そうだけど。何で私の勤務先を知っているのかな』
『勇人センパイから聞きました』
不意に恵菜は、半月ほど履歴に残っていた見知らぬ携帯電話番号も、実は理穂の携帯番号なのでは、と勘付く。
『私のスマホに着信履歴が毎日のように残っていたんだけど、もしかして……それは汐田さんの携帯番号?』
『そうです。恵菜センパイの携帯の番号も、勇人センパイから聞きました』
(ああ、やっぱり離婚してからも、勇人と理穂は会い続けていたのか……)
理穂の返事を見ながら、乾いた笑みを覗かせ、唇を歪めた。
すると、また理穂からのメッセージを受信。
『今、ファクトリーパークの近くにあるカフェにいて、恵菜センパイにお話したい事があります。来てもらってもいいですか?』
(ずいぶん強気なメッセージ。普通は『今、お時間ありますか?』って聞くと思うんだけど……)
非常識とも取れる理穂のメッセージに、呆れた表情を浮かべながらもメッセージを打つ。
『私みたいなブタに、何の話があるのかな?』
恵菜は、敢えて自虐ネタを仕込んで返信した。
勇人が理穂とのやり取りで、恵菜の事を『ブタ呼ばわり』している事は、理穂も分かっていると思う。
『恵菜センパイ、ブタって……w』
文末の『w』を見て、理穂は恵菜に対して、マウントを取っているのだろう、と感じた。
(アホらしい。さっさと話をして家に帰りたい……)
『それで、今あなたがいるカフェは?』
恵菜がメッセージの流れを断ち切るために、カフェの名前を聞き出すと、奇妙な事に、かつての義母、早瀬良子と入った店の名前。
(何か…………嫌な予感しかしないんだけど……)
恵菜は、十分後にカフェに到着する事を伝え、重い足取りで理穂の待つ店へと足を向けた。