親友を失った。
いつから、彼と一緒だっただろう。
交通事故だ。
彼は、知らぬ間に事故に遭い、死ぬ姿を見ず、別れた。
最愛の人と別れた。
彼女が存命なのが、僕にとって唯一の救い。
そんな希望は、闇夜に反射した石のように小さな光で、胸の穴は深まるばかりだ。
夢を失った。
歌を歌い、多くの人に聞いてもらいたかった。歌い続けたその声は、虚構に散る煙のよう。
風が、周囲を駆け抜ける。
僕はビルの屋上にいる。
鈍く光るコンクリート。
そして、僕は屋上の端に立つ。
目の前には、鮮やかな夜景。
でも、何も見えない。
音、色、匂い、冷たさ。
僕には、すべてが偽物で。
このまま、闇へ落ちていく。
人形になった僕の体が、高い手すりを乗り越える。
まぶたが閉じる。
体が傾きかかる刹那、僕は何かを聞いた。「、、、、、、、、ぬの、、、」「、、、、、、、、死ぬの?」
たしか、そんなことを言っていた。
「あ、、、ああ。そうだよ。」
振り返り際に、僕は言う。
「どうして死ぬの?」
この時期に、凍りそうな薄い白のドレス。
「さあ、分からない。」
「、、、、僕は死ぬのだろうか?」
「きっと死ぬわ。そんな高さから落ちてしまったら。」
彼女のなびく黒い髪が、風の存在を示す。
「そうか、、、」
「きみは?」
「かざね。あなたは?」
「僕は、あお。」
「青って言うのね。どうして死ぬのか、青は分かった?」
「ああ、、、、そうだ。暗闇にいるんだ。暗闇に吸い込まれていく。」
「私なら引き戻せるわ。」
「そっか。でも、気が進まないな。」
「暗闇が待っているから?」
「うん。楽になりたいかも。」
「青、あなたは希望を失ったのね。」
「まあ、確か、そんなところだったかな。」「私は、あなたを愛しましょう。その代わり、こちらへ来て。」
彼女の瞳が僕を見る。僕の入った入れ物を。「分からないな。風音さんの愛は、一体どんな意味?」
「言葉通りよ。嘘じゃない。例えば、あなたと今から飛び降りる事だってできる。あなたは、愛を忘れたの?」
「いいや、違うよ。たくさん、愛という言葉を聞いたさ。言葉だけの愛を。それと勘違いしてしまった。」
「ずいぶん汚れているようね。もう、2度は言いません。」
僕は、また手すりを乗り越える。乗り越えた意識を確かに感じた。
「風音さん、僕は、光なら見えたよ。でも、今日は何も見えない。」
「そのようね。まず、黙っていなさい。」
彼女は、僕を抱きしめた。
僕は、少し驚く。穏やかな水面。
そこに滲む色水のように。
何かが心に染み渡る。
彼女は黙ったまま。
僕は、彼女に包み込まれる。
あたたかさ、やわらかさ、おだやかさ。
そこにある、希望。
彼女のまぶしさ。
すべてが十分だった。
彼女を感じるだけで、僕はもう、満ち足りていた。
ああ、、、美しい、、これは夢の中か、あるいは幻想か。
夜風が注ぐ、屋上の手すりで止まる鳥を、確かに僕は見た。