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「イヴィルよ。お前は魔法が使えたらしいではないか」
修練所でひとしきり魔法の練習をした日の晩。
俺はやたらと広い机で晩飯を食べていると、イヴィルの父であるハインリヒ・ヴィルサレムは唐突に口を開いた。
少し空気が重たくなるのを感じる。
威厳といえばそれまでだが、どこか有無を言わせない、
そんな圧力が両肩にかかったような錯覚がした。
きっとフラムあたりが報告をしたのだろう。
まぁ、イヴィルが幼い頃から闇魔法を使えてことは事実だが。
「何故、魔法を使えることを隠していた?」
2秒後、ハインリヒは俺に尋ねる。
「単純な理由でございます。あくまでおとぎ話ですが、勇者は光魔法を使いますが、それでは反対の属性に位置する闇魔法は? くだらない話ですがとは思いますが恥ずかしいことだと感じていた……そんなところです」
「ふむ……」
ハインリヒは顎髭を触った後、右手でゆっくりワイングラスに口をつける。
その後、一息ついて再びに俺に尋ねる。
「それで今になって、急に魔法を使おうと思ったのは何故だ?」
「これも些細なことです。どうせ魔法が使えることがばらすなら、ヴィルサレム公爵家の跡取りたる者、他の者に後れを取ることはありえないなと、思い至っただけですよ」
俺はそれっぽい言葉をさらっと言うと、
「なんだと……?」
ハインリヒは少しだけ驚いた表情を俺に向ける。
「まさか、お前からそのような言葉が聞けるとはな」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた後に、ニヤリと笑みを浮かべてハインリヒの目をまっすぐ見つめる。
「しかし、お父様は俺が魔法が使えたと隠していてもお気になさらないでしょう?」
「何故そうに思う?」
ハインリヒは眉をひそめて、
「簡単な話です。お父様は実力で全て評価なさっているではありませんか。故に今の俺の課題は実力を示すことですから、俺が魔法を隠していたことくらい気にしないと信じておりますので」
「面白いことを言うようになったのではないか」
ハインリヒは「クククッ……」と笑みをこぼした後に、メイドのアンナに視線を向ける。
「アンナは知っていたのか?」
「旦那様、申し訳ありません……私もイヴィル様が魔法を使えることは知りませんでした……」
ハインリヒに目線を向けられたアンナは勢いよく頭を下げる。
アンナの肩は震えていた。
「お父様、あまりアンナを責めないで下さい」
「責めるだと?」
「お言葉ではございますが、そもそも俺は魔法を使えること自体を隠していたのです。アンナが知るはずがありません。これで知っていたというのであれば、むしろ俺の方が恥ずかしくなってしまいますよ」
「なるほど。であれば仕方ないことだ。アンナよ。すまなかった。頭をあげるといい」
「と、とんでもございません!!」
アンナは勢いよく頭を上げて、焦ったように首を振る。
こればっかりはイヴィルが悪い。
「しかし、その見せかけの努力がいつまで続くか楽しませてもらうぞ」
「もちろん。言葉ではなく結果で証明してみせましょう」
ハインリヒは「そうか」と笑いながら赤のワインを煽る。
今ままでイヴィルの素行を顧みるならば仕方のないことだとは思う。
俺からしたら、他の者にどう思われようとどうでもいいが……。
しかし前向きに考えるならば、ハインリヒは俺に少なからず興味を持っている。
いいチャンスだと思った。
せっかくならふっかけてやろう。
「お父様、少しご相談をしてもよろしいでしょうか?」
「……言ってみろ」
ハインリヒは俺に軽蔑の視線を送りながら、再びワインを煽る。
どうせ大したことないの相談なのだろうと、そう言いたげな視線だった。
しかし、俺は気にすることなく口を開く。
「ありがとうございます。僭越だと存じておりますが書庫に立ち入る許可を餞別として頂けないでしょうか?」
「書庫だと?? 何故だ」
俺がそう言うと、ワインを飲む手を止めた。
「更なる研鑽を積むには知識が不可欠。公爵家の書庫には王国内のありとあらゆる本があると伺っています。貴重な知識の宝庫ですから、入りたいと思うのも当然でございましょう」
というのは建前だ。
真の目的は書庫にあるはずの魔導書。
「そうか。好きにしろ」
ハインリヒは溜息を吐く。
「ありがたき幸せ。お父様の寛大な御心に感謝致します」
俺はそう言いながら頭を下げた後、席を立つ。
「それでは早速ではありますが、書庫に寄らせて頂きます」
善は急げ。俺は早速、書庫に向かった。
「本当にイヴィルか? 普段であれば癇癪《かんしゃく》を起していたはずだが……」
部屋を出る間際、ハインリヒの困惑した声がした。
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#ハッピーエンド
草凪葉月🌙⭐️🐈⬛@活休中?