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「亮介、わたし|鶴岡八幡宮《ここ》がいい」
「ええっ? ここ?」
「うん、うちは参列者もいないし。せっかくなら亮介の地元がいいかなと思って。それに亮介の袴姿見たい」
いつかの薄墨色の浴衣姿が思い出される。あれは色気がだだ漏れですごく素敵だった。
「未央がいいなら、そうしよう」
鶴岡八幡宮にお参りを済ませ、石段を降りた。「ねえ、ちょっと江ノ電乗って海見に行かない?」
鶴岡八幡宮を後にして、鎌倉駅に向かう途中で亮介はそう未央を誘った。
「江ノ電? あのバスケのマンガの?」
「あぁ、うん。それに出てくる有名な踏切がある駅、行ってみる? 砂浜にも降りられるし」
「行きたい! 行ってみたい」
鎌倉駅から江ノ電にのり、鎌倉高校前で降りるとすぐその踏切があった。観光客も多く、未央も大興奮で写真をバシャバシャ撮りまくり、落ち着いたところで海岸へ降りた。
海風は冷たいが、亮介のコートのポケットの中で手をつないで、寄り添って歩くとそんなに気にならなかった。
亮介はさっきから黙っている。どうしたのかな。
「きれいだね、私、海久しぶりにきた」
「僕、悲しいことがあるといつもここにきてました。夕日見ながら泣いたりして」
「悲しいことって……失恋とか?」
「そうですね、そんな感じです」
「キャラ変で、悲しい思いもした?」
「未央にも、最初は内緒にしとこうと思ってたくらい。ゴキのおかげでバレちゃったけど」
「ふふっ、それがいいところなのにね。いままでの女の子に感謝しなくちゃ」
「感謝?」
「うん、その失恋があったから、亮介とこうしてめぐり逢えたわけだし」
「そっか、ほんとそうですね。フッてくれてありがとうだ」
「そうそう。そのときは辛くてもさ、後で考えたら、それがあったからよかったって思うことあるよね」
「あの頃の自分に言ってやりたいです。こんなすてきな人と結婚することになったから、そんなに落ちこむなって」
甘すぎる会話に頬が赤くなる。悲しいことも、未来の自分が良いことに変えてくれる。悲しみは未来の幸せな自分への一歩。そう思って、亮介と生きていきたい。
「ありがとうね、亮介」
「ん?」
「私と出逢ってくれてありがとう。一緒に幸せになろう」
「──っ!!」
亮介はぎゅっと未央を抱きしめてキスをした。いままでのどんなキスよりも幸せなキスだった。
──もうすぐクリスマス。未央は無事にリーダー昇格試験を終え、来月の合格発表を待つのみとなった。
レシピ開発部の雰囲気にもずいぶん慣れて、矢継ぎ早の意見交換にも混ざれるようになってきた。
来月からは、朱里から未央に仕切り役がかわることになり、バタバタと準備も忙しかったが、それも楽しめるくらいレシピ開発部は居心地が良かった。
入籍は覚えやすいように、未央の誕生日にすることになった。未央の誕生日、それは12月25日。クリスマスだ。
「未央、誕生日どうしたい?」
せっかくなのでクリスマスイブから泊まりで出かけようということになった。サクラはあきが預かってくれるとのこと。
「うーん……イルミネーション見にいきたいな。ベタだけど」
「イルミネーションなら、どこでもいい?」
「うん! 嬉しい」
「じゃあいいとこ探しとくね」
そう話をしたのは亮介のご両親にあいさつにいってすぐのこと。それからうんともすんとも話がなく、未央は少し心配になっていた。
いよいよ明日がクリスマスイブという日。まだ何も言ってこない亮介にしびれをきらして未央はたずねた。
「亮介、あしたってどうなってる?」
お風呂から上がって、歯磨きをする亮介に、後ろから話しかけた。