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#勧善懲悪
#勧善懲悪
夜の雨がやんだばかりの朝、透羽市の空はまだ薄く曇っていた。雨上がり公園の砂は水を含んでやわらかく、古い滑り台の下には小さな水たまりがいくつも残っている。
サペは工具袋を肩にかけ、公園の木製ベンチのゆるんだねじを締めに来ていた。祖父が生きていたころから、壊れたものを見かけると放っておけない。誰に頼まれたわけでもないのに、つい手が伸びる。
その朝も、濡れた落ち葉をどけた拍子に、何かがこつんと靴先に当たった。
拾い上げると、片目の外れた小さなからくり人形だった。胸のあたりに細かな傷がある。古いが、雑に捨てられた感じはしない。誰かが大事にしていて、急いで手放したような傷み方だった。
「……おまえも雨宿り、失敗したのか」
小さくつぶやいてから、サペは自分で少し照れた。人形に話しかける癖は、祖父の工房で移ったものだ。
その足元に、もう一枚、黒い紙が落ちていた。
名刺だった。つやのない黒地に、銀色の文字だけが浮いている。
あなたの願い、かなえます。
代金は他人の幸福。
サペは眉をひそめた。
裏返しても、電話番号も住所もない。会社名も名前もなく、隅に小さく悪魔の横顔のような絵が刷られているだけだった。
「朝から感じの悪いもん拾ったな……」
捨てようとしたが、指が止まった。名刺の角に泥がついている。ついさっきまで、誰かが握っていたみたいだった。
その時、背後で、ぎい、と古いブランコが鳴った。
振り向くと、誰も乗っていない。
風もないのに、片方だけがゆっくり揺れていた。
サペは人形を抱え、黒い名刺を工具袋へ入れた。
胸の奥で、嫌な音がした。
ただの拾い物にしては、妙に重かった。