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その日の昼前、公園の水たまりは半分ほど乾いていた。サペは片目のないからくり人形を工房へ持ち帰る前に、壊れ具合だけ見ておこうと屋根付きの休憩所へ腰を下ろした。
すると、すぐ近くの花壇の陰から、しゃくり上げる声が聞こえた。
小学生の男の子が一人、ひざを抱えて泣いている。膝には泥がつき、鼻をすすりながら、何度も「ごめん」とつぶやいていた。
サペは少し迷ってから、距離を取りつつ声をかけた。
「けが、してるか」
男の子は首を振った。けれど泣きやまない。
「じゃあ、何があった」
「……ぼく、言っちゃったんだ」
「何を」
「友だちの、ないしょ」
男の子は両手で顔をこすった。
「言っちゃだめだって分かってたのに、言ったらあいつ、みんなに笑われて……。ぼく、そんなつもりじゃなかったのに」
サペは、公園のベンチに腰をずらした。
「どうして言った」
「だって、かなうって書いてあったから」
「何が」
「黒い名刺」
サペの背筋が冷えた。
男の子はポケットから、くしゃくしゃになった黒い紙片を出した。朝、サペが拾ったものと同じ材質、同じ色だった。角には、あの悪魔みたいな絵もある。
「サッカー、うまくなりたくて。あいつが休めば、ぼくが試合に出られるかなって、思っちゃって……」
「それで」
「願いを書いて、公園のごみ箱に入れたの。そしたら昨日の夜、知らない人からメッセージが来て、あいつの秘密を言えば叶うって」
子どもの肩が、また震えた。
サペは名刺を見つめた。ふざけたいたずらにしては手が込みすぎている。しかも相手は子どもだ。
「その秘密、誰から聞いた」
「相談って言われて……。大人のお兄さんが、悩みあるなら話してって」
サペは黒い名刺を工具袋から出し、男の子の紙と並べた。まったく同じだ。
「そのお兄さん、顔は覚えてるか」
「にこにこしてた。なんか、すごくいい人みたいに」
いい人みたいに笑うやつほど、たちが悪い。
サペは立ち上がった。人形も、名刺も、ただの拾い物ではなかった。
しかも、もう誰かが傷ついている。
その時、公園の入口から、明るい声が飛んできた。
「サペ! また朝から拾いもの?」
振り向くまでもなく、エリアだった。
#勧善懲悪
#勧善懲悪