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賢治は菜月との縁談に乗り気では無かった。父親である四島しじま工業株式会社社長、四島忠信しじまただのぶたっての願いで、致し方なく見合いの席に着いた。
「初めまして綾野菜月です」
「四島賢治です」
ところが、菜月は申し分なく美しい女性だった。賢治は一目で惹かれたが、その純真無垢さに手を握る事さえ憚はばかられた。しかも菜月は言葉少なく結納を終える頃には興醒めし、賢治は四島工業の女子社員と寄りを戻し愚行に走った。
(人形みたいな女だな、美希みきとは比べものにならないな)
美希とは賢治が過去に付き合っていた女性社員で吉田 美希よしだみきといった。美希とのセックスは奔放で、激しい快楽を伴った。菜月と結婚するために一時は別れたが、すぐによりを戻していた。
勤務時間中の屋外でのセックスは興奮を高めた。駐車場の片隅に停めた車の窓に淡く差し込む。後部座席のシートに沈む賢治と美希は、互いの吐息だけが響く狭い空間で、言葉を交わさず見つめ合っていた。賢治の手は、美希の頬をそっと撫で、その指先は彼女の首筋を滑るように下りていく。美希の瞳は揺れ、罪悪感と欲望が交錯するその眼差しは、賢治の心をさらに掻き立てた。
「ここでしていい?」
「早くちょうだい、もう我慢できない」
賢治が囁くと、美希は熱い視線を送り目を閉じた。車内の空気は熱を帯び、美希の肩から滑り落ちたブラウスが、シートの上でくしゃりと音を立てる。賢治は彼女の腰に手を回し、ゆっくりと引き寄せた。二人の動きは、まるで時間を忘れたかのように緩やかで、しかし抑えきれぬ情熱がその指先に宿っていた。シートがきしむ音と、時折漏れる美希の吐息が、車内の静寂を破る。賢治の唇が美希の首に触れるたび、彼女の体は微かに震えた。陽光が二人の肌にまだらな影を落とし、その光と影の中で、激しく互いを求め合う。言葉は不要だった。あるのは呻き声だけ。賢治の腰の動きは激しく、美希の腰を抱え上げた。
それに比べ、菜月との新婚旅行は最悪だった。菜月はベッドの中で微動だにせず、事後に聞けば処女だと言った。賢治はそれを重荷に感じた。
(なんも楽しめねぇな)
賢治は美希を性欲の吐口にし、週のほとんどをアルファードの後部座席で過ごした。ただ、その行為もマンネリで飽きが来ていた。
ー3ヶ月前のことだ
そんな折、母校である高等学校の同窓会のハガキが届いた。 普段ならばゴミ箱行きだが何気なく裏返して見た。幹事の名前を二度見した。
(幹事 如月倫子、倫子だ)
高校一年生の夏に賢治が一目惚れをして告白した。 「ねぇ、賢治くん・・・行こ?」 「なに、良いの?」 「うん、賢治くんなら良い」 付き合って間も無く倫子に誘われ初めてラブホテルに入った。賢治も倫子もセックスは初体験で、初めはぎこちなかったが小遣いを貯めてホテルに通った。けれど倫子には嫉妬深い一面があり、賢治と距離が近いクラスメイトの女子に執拗な嫌がらせをして問題になった。
その女生徒は登校拒否になり転校する事になった。その時の倫子の勝ち誇った表情に怖気おぞけを感じた賢治は高等学校卒業を機に別れ話を切り出した。
「もう別れよう」
「どうして!?」
「おまえが怖いんだ」
「私の何処が怖いの!」
「自分でよく考えろ」
それはあまりに一方的な別れで、納得が出来なかった倫子は自宅周辺を徘徊したり、大学の校門で待ち伏せした。 「なに、何か用でもあった?」 「相談したい事があるの」 賢治と倫子はなし崩しに性行為に耽るだけの関係になった。だが、大学の友人から倫子が姉の恋人を誘惑し殺傷沙汰になったので注意しろと忠告され、それを理由にセックスフレンドの関係を解消した。
「もう駄目なの?」 「おまえ、姉ちゃんの男と寝たんだろ?」 「…それは、誘われて」 「誘われたら誰でも寝るのか、もう別れよう」 この時は流石に倫子も納得し、二人は疎遠になった。三十歳を過ぎる頃には連絡も途絶えがちになり風の噂では姉の恋人と結婚したと聞いた。
(倫子が、幹事)
賢治は迷わずに出席に丸を付け、往復ハガキを急いで郵便ポストに投函した。同窓会当日は一番仕立ての良い黒いスーツに絹のネクタイを締めて出掛けた。賢治は魅惑的だった倫子のラインを思い浮かべ、体の中が熱くなるのを感じた。