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日下部の相談室2

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日下部の相談室2

31 - 第31話 仲良い子が、他の子と楽しそうにしてるのを見るのが苦しい

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2025年10月30日

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放課後の相談室。日下部は机に肘をつき、ノートにシャープペンを走らせていた。

窓の外では、帰り支度をする部活生たちの笑い声が聞こえる。


コン、コン。

軽いノックのあと、ドアが静かに開いた。


「……入っていい、ですか」


顔を出したのは、見慣れたクラスの女子だった。

表情は明るいのに、目だけがどこか曇っている。


「別にいいけど」


日下部は顔を上げずに答える。

彼女はためらいながら椅子に座った。


「……なんか、最近しんどくて」


「ふーん。何が?」


しばらくの沈黙。

彼女は指先をいじりながら、小さく息を吐いた。


「仲良い子がね、他の子と楽しそうにしてるの見ると……

苦しくなるんです。

そんなつもりないのに、勝手に比べちゃって。

“自分がいなくても楽しそう”って思うと、

心のどこかが、ぎゅってなる」


日下部は何も言わない。

ただ、ペンを止めて彼女の話を聞いていた。


「嫉妬なんてしたくないのに、

そういう気持ちになってる自分が嫌で……

“友達なのに、こんなこと思うなんて”って、

自己嫌悪ばっかりで」


彼女の声は震えていた。

日下部は、少しだけ目線を落とす。


「……そういうの、普通だろ」


「普通?」


「好きだから、気になる。

一緒にいた時間がある分、

他の誰かと笑ってるのを見ると、

“自分の居場所”がなくなった気がするんだよ。

それ、嫉妬とかじゃなくて――

ちゃんとその人を大事にしてる証拠じゃね?」


彼女は顔を上げる。

その目に、わずかな光が戻った。


「でも……そんな自分、重くないですか?」


日下部は少し考えて、苦笑する。


「まぁ、重いかもな。

でもさ、軽く生きられるやつばっかじゃないだろ。

“誰かを大事にする”って、

たぶん、ちょっと重くなるくらいが普通なんだよ」


「……重くても、いいのかな」


「いいよ。

ただ、その重さを全部相手に渡さなきゃな」


「え?」


「“寂しかった”とか“置いていかれた気がした”って、

ちゃんと伝えればいい。

黙って我慢してると、勝手に傷になる。

でも、言葉にすれば――

“関係を続けたい”っていうメッセージになる」


彼女は息を飲んだ。

いつの間にか、胸の奥のもやが少しだけ軽くなっていた。


日下部はペンを回しながら、ぽつりと続ける。


「人を好きになるってさ、

いつも少しだけ“苦しい”もんだよ。

でも、その苦しさを抱えたままでも笑える人が、

本当に優しい人なんだと思う」


相談室の時計が、静かに秒を刻む。

彼女は小さく頷き、鞄を持って立ち上がった。


「……ありがとう。少し、話してよかった」


日下部は机に視線を戻したまま、

「別に」とだけ呟いた。


けれど、その声には、

どこか温かさが滲んでいた。


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