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夕暮れの教室は、グラデーションの空気に包まれていた。ドアが軋む音と一緒に、来訪者がそっと入ってくる。
鞄を抱えたまま、机に額を落とした。
「……進路、どうすればいいかわからない」
蓮司は黒板の前で腕を組み、肩を少しすくめる。
「どんな感じ? やりたいことが見つからない?」
「うん。周りはもう決めてる人多いのに、
私は“これだ”って思えるものがない。
親にも早く決めろって言われるし、
何か選ばなきゃって焦るだけ」
蓮司は机に寄りかかり、ペンを指で回した。
「決めたやつらだって、たぶん不安だらけだよ。
表に出さないだけ」
「でも……迷ってる自分がダメみたいに感じる」
「迷ってるって、動いてる証拠じゃん。
何も考えてないやつは、そもそも迷わない」
来訪者が顔を上げる。
「……考えてるから、迷う?」
「そう。
しかも答えって、最初からひとつじゃない。
試しにやってみて違ったら、変えればいい。
ゲームだってセーブデータは一個じゃないだろ」
「でも失敗が怖い」
蓮司は小さく息を吐いた。
「失敗ってさ、
あとから見たらただの途中経過だったりする。
俺だって部活何度も変えたし。
その時は“終わった”って思ったけど、
今は笑い話」
窓の外、校庭の照明がぽつりと光った。
来訪者の肩が少しだけ下がる。
「……試してみてもいいのかな」
「いい。
選ぶっていうより、試して遊ぶに近いかもな。
途中で気が変わったら“やめた”って言えばいい。
人生って意外とその自由がある」
教室を渡る風が、紙の端を揺らす。
蓮司はペンを机に転がしながら、
「迷ってる時間も、進んでる時間。
それ自体が次を決めるヒントになる」
来訪者は深く息を吸い、
「……ちょっとだけ楽になったかも」
そうつぶやき、窓の外の夕闇を見つめた。