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下田に行く前日の夜、涼平は持って行く荷物の準備をしていた。

夜のうちに車に荷物を積み込んでしまおうと、駐車場とマンションを往復する。

荷物の積み込みを終えた涼平が部屋に戻った時、もう一つ大事な物を忘れている事に気づいた。

それは一眼レフのカメラだった。


涼平はクローゼットを開けてカメラを取り出した。

ずっと使わないまましまっていたのでレンズの手入れが必要だろう。

涼平はレンズのクリーナーを取り出すと、ソファーに座ってメンテナンスを始めた。


涼平は写真が趣味で、昔はしょっちゅう撮影をしていた。

初めて一眼レフカメラを買った時は、旅先で風景写真を撮っていた。

その後菜々子と付き合い出してからは、デート中に菜々子をよく撮影していた。

サーフィン仲間との旅行やキャンプでも、撮影係として沢山の写真を撮っていた。

その頃ちょうど二台目のこのカメラに買い替えた。

そしてその後菜々子は帰らぬ人となった。


このカメラを最後に使ったのはいつだっただろうか?


涼平はSDカードのメモリーを確認してみた。

するとカメラのライブビューには、サーフボードを持った菜々子の姿が映し出された。


涼平はその画像を懐かしそうに見つめた。

そしてページをめくっていき何枚も写っている菜々子の写真を見ていく。

写真は全部で七十枚ほどあった。


海での写真以外にも、横浜のマンションで菜々子が誕生日ケーキのろうそくを吹き消そうとしている写真や、

公園の芝生の上でピクニックをしている写真、

菜々子がウェディングドレスの試着をした時の写真、そして新居となるマンションを見に行った時の写真など、

涼平にとってはどれも思い出深い写真ばかりだった。


涼平はその写真をしばらく愛おしそうに見つめ続ける。

一通り最後まで見終わった後、涼平はフーッとため息をついた。

そしてカメラをテーブルに置くと窓辺へ行きそのままベランダに出た。


涼平はベランダの手すりにもたれかかりながら夜空を眺めた。


(今日はやけに星が滲んで見えるな……)


心の中でそう呟く。


その後涼平は意を決したように部屋へ戻ると、再びソファーに座りカメラを手にする。


そして次の瞬間、涼平の指は画像の『削除』ボタンを押した。


十一月の秋が深まりゆく星の綺麗な夜だった。




その頃、詩帆も旅の準備を始めていた。

準備をすると言ってもほとんどは涼平が準備してくれるので、詩帆が用意するのは着替えと画材くらいだった。

だから準備はすぐに終わった。

拍子抜けするくらいあっさりと終わったので、なんだか手持無沙汰だった。

そこで詩帆はお菓子作りをしようと思いつく。


明日のキャンプで食べられるようにケーキを焼いて行こう。

そう思った詩帆は、早速準備を始めた。


詩帆は料理は苦手だったが、お菓子作りは大の得意だった。

高校生の頃はパティシエになろうかと本気で思うほど、お菓子作りにのめり込んでいた時期があった。

だからケーキはプロ並みに作れる自信はあった。


今カフェでアルバイトをしているのも、スイーツ好きが影響しているのかもしれない。

その証拠に、カフェでスイーツの新作が出ると詩帆は真っ先に購入して味見をしていた。


詩帆は悩んだ末ガトーショコラを作って持って行く事にした。

これなら保冷剤をつけて持って行けば傷むこともないだろう。


久しぶりの菓子作りに詩帆は真剣そのもので取り組んだ。

チョコレートを湯煎で溶かす時の甘い匂いが、なんとも言えず幸せな気分にさせてくれる。


卵白を泡立てた所へグラニュー糖を加える。

そしてふるった薄力粉やココアパウダーを加えてからさっくりと混ぜ合わせて型に入れて焼く。


ケーキが焼き上がるまでの間、詩帆はパソコンで下田の海を検索した。

パソコンの画面に映る下田の海は、どれも美しいエメラルドグリーン色をしていた。


(こんな近くにこんな美しい色の海があったなんて……)


その海を明日見られるかもしれないと思うと、詩帆の胸は期待で高鳴っていた。

セルリアンブルーの夜明け

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コメント

3

ユーザー

涼平さんが写真を削除するの凄く泣けますね🥲ドレスの写真とかたくさんの想い出は心にしまって、詩帆ちゃんとの新たな想い出を作っていく決意ですよね。幸せになって欲しいですもんね。

ユーザー

↓ノルノルさんと同感です。 うぅぅ...切ない....😢 菜々子さんとの想い出を心の中に秘め、涼平さんは詩帆ちゃんと共に 未来に向かって歩み始めましたね....✨

ユーザー

涼平さんは菜々子さんの思い出を心の奥底に秘めて物理的な思い出を削除したんだろうね📷😭 詩帆ちゃんとの未来に希望を持って新しい写真と思い出を作るために…✨✨

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