エレベーターに乗った健吾は麗奈に対して嫌悪感でいっぱいだった。
ああいうタイプは今までに何人も見て来たが、何度見ても反吐が出る。
それにしても、あの女が一緒にいた男が原口なのか?
原口は社交的で顔が広く投資家の間ではそこそこ知られた人物だったが、
健吾が親しくしている投資仲間達の間では最悪の評判だった。
それは次から次へと愛人作りまくり、自分が経営している飲食店の従業員にも手を出しているという噂があったからだ。
親友の英人が原口と親しくしているのは、もちろん表面上だけだ。
健吾は英人から原口の悪い噂をしょっちゅう聞いていた。
そんな遊び人の原口と石垣島旅行に来るなんて、あの女は馬鹿じゃないのか?
健吾はイライラした気分をなんとか切り替えようと、先ほど売店で買った袋の中を覗いた。
理紗子の為に買ったパインジュースは石垣島産のパイナップルを使ったジュースだった。
理紗子が喜ばないわけない。
ついでにチョコレートまで買ってしまったが彼女は食べるだろうか?
健吾はついあれこれと理紗子の事を考える。
そして理紗子の喜ぶ顔を想像しただけで健吾の顔が綻ぶ。
その時健吾の機嫌はすっかり戻っていた。
エレベーターが最上階に到着すると健吾は足早に部屋へ向かった。
そして勢いよく扉を開ける。
「理紗子! パイナップルジュースがあったぞ…….」
健吾が部屋の中を見ると、理紗子は窓際のソファーに横になっていた。
傍に近づくと無邪気な顔をしてすやすやと眠っている。
今日は暑い中一日外にいたので疲れたのだろう。
まだ夕食まではたっぷり時間があるので、健吾は理紗子をそのまま寝かせておく事にした。
そして健吾はその場にしゃがみ込み理紗子の寝顔を見つめる。
先程プレゼントした黒蝶真珠のペンダントがVネックの胸元にこぼれ落ちている。
ピアスは小ぶりの揺れるタイプのもので、理沙子の愛らしい耳に良く似合っていた。
健吾は満足そうに微笑むと、ゆっくり立ち上がってから買って来た物を冷蔵庫にしまいに行った。
それからテーブルの上のノートパソコンを開くと、仕事を始める。
夜は相場監視をしなければならないが、今のこの時間は実業の方の雑務に専念する。
投資家というと楽をして稼いでいるようなイメージを持たれがちだが、決してそんな事はない。
特に健吾のように会社経営もしている場合には、様々な雑務が毎日のように押し寄せて来る。
過去に健吾と付き合った女達は、健吾の時間は全部自分の為に使えると勘違いをしている女が多かった。
だから女達が気まぐれに健吾を呼び出して健吾が断ると、途端に機嫌が悪くなる。
それでも付き合い初めの頃は、なんとか機嫌を取ってその埋め合わせに尽力する。
しかしそういう付き合いが続けば続くほど、健吾の気持ちはどんどん冷めていき長続きしなかった。
(俺がどんな思いで仕事をしているか全くわかっちゃいねーんだよなぁ)
健吾は心の中でそう呟くと、ソファーで眠っている理紗子を見た。
しかし理紗子は違う。
理紗子も自分の人生を掛けて小説家という仕事に熱意を注いでいる。
決して生半可な気持ちではない。それは見ていてよくわかる。
彼女の仕事に対するそんな所にも健吾は好感を持てた。
仕事に対する考え方が、理紗子と自分とではよく似ているような気がした。
だから一緒にいて安心できるのかもしれない。
今回、急に石垣島に来る事を決めた際健吾はかなり無理をした。
出発直前まで様々な仕事を前倒しでやっつけてきた。
それでも終わらなかった仕事を、今こうして片づけている。
しかし健吾はどんなに無理をしてでも、この島に来たいと思っていた。
理紗子がいる石垣島に、何が何でも来ようと思っていた。
結果的に来て良かったと思っている。
それは、この旅でだいぶ理紗子との距離が縮まったような気がしたからだ。
健吾は優しい眼差しを理紗子へ向けた後、また視線をパソコンへ戻した。
そして残りの仕事に集中して取り組んだ。
コメント
4件
健吾さんの 理紗子ちゃんへの純粋な愛情や尊敬の気持ちは、旅行を通じて 更に強固なものになってきていますね....💝✨ おそらく 理紗子ちゃんも、健吾さんに対して 同じ気持ちを抱いていると思われます💖✨ 女豹さん、健吾さんを落とそうと 勝手に燃えているようですが....🐆🔥 無駄、無駄‼️全く相手にもされませんよ~😁
だから常識的な努力の人の理沙ちゃんにとてつもなく惹かれてるんだろう。 そう思うとどう頑張っても麗奈が健吾を射止めることは100%無いな🤭
理沙ちゃんと女豹麗奈は対極にいるんだね。 失恋を乗り越えて一生懸命努力して小説家として成功を手に収めて尚も読者に満足のいく作品を作るために情報収集を欠かさない理沙ちゃんと、お嬢として親の金も男もステイタスも何不自由なく我が物になる麗奈。 健吾は過去の恋愛遍歴が麗奈のような人ばかりで何の努力もなく健吾の時間をも搾取する女から卒業したんだろうか⁉️