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 振りかざした剣と共に、道化師の叫びが周囲へ響き渡る。

 道化師の剣は、俺の首を跳ねることは無かった。それは何故か。俺の首を跳ねるには、である。

 では何故、届かなかったか――――――。

「……っつたく、いつまでも油打ってんじゃねーよ。バカ兄貴が」

 俺の首を跳ねる寸前、道化師の剣は止められた。それは日がだいぶ傾き、夕焼け色の空を背に……表通りから現れた人物の放った鎖に、絡め取られていたためである。

「間に合ってくれたか、ロキ!!」

 その人物……ロキは「フン!」と不機嫌そうに鼻を鳴らしては、軽く舌打ちをする。

「まったく、人使いが荒いのも程々にしろよな」

 そう言って悪態を着く。それすらも今の俺には、安心する一言だ。

「その様子じゃ、どうやら上手くいったみたいだな」

「当たり前だろ。僕を誰だと思ってるんだ?」

 ロキがニヤリと笑う。そんな俺たちを見ていた道化師は、ロキへと視線を向ける。

「アナタはァッ! またワタシの邪魔ヲォォオオォォォオ!!」

 道化師はカードを取り出すと、ロキの首を目掛けて投げる。ロキは軽く首を傾けてかわすと、冷静に新たに取り出した鎖を構える。

「《束縛バインド》!!」

 そう唱え、両手に絡めた鎖を道化師へと飛ばして拘束する。そしてさらに追い打ちをかけるように、地面から現れた無数の鎖と共に、拘束した道化師へと札を投げつけた。

「こんな鎖! 直ぐに破壊しテ……っ!?」

 道化師の顔つきが変わる。鎖を解こうと、あれこれと藻掻く。が、鎖はビクともしない。その姿を見て内心俺は、結果的に自身の考えた作戦が上手くいった事に安堵する。

「まぁ色々と誤算はあったが、全ては計画通り……!」

 どこぞの新世界の神のように不敵に笑って言えば、ロキから掠った腕を軽くはたかれる。

「アホぬかせ。全部ギリギリの作戦だっただろうが」

「ロキさん、ちょっと待って……! そこマジで痛いから……!」

 鈍い痛みに耐えながら、涙目で悶える。いや本当、マジで痛いからやめてね!?

 一方の道化師はというと、何故ロキの鎖が壊せないのかを考えていると言った表情で、俺たち二人を見る。

「『なんで鎖が壊せないんだ?』そんな顔だな。道化師サマよぉ」

 俺の言葉に、道化師は苦虫を噛み潰したよう表情で睨んでくる。

「ワタシに一体、何をしたのデスか……!?」

「別に、お前に直接何かした訳じゃないさ。。それだけだよ」

……、だと!?」

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁

 ――――――作戦開始、数分前……。――――――

「なぁロキ、ちょっと良いか?」

「あ? 何だよ。用件ならさっさと言えよ」

 俺はちょいちょいと、ロキを手招きして呼び止める。

 ロキはあからさまに不機嫌そうな顔をしたが、素直に応じてくれた。

「いや、道化師を捕まえる作戦なんだけどさ。……俺にちょっとした案があるんだわ」

「はぁ?」

 ロキは眉根を寄せては、怪訝そうな顔をする。

「まぁぶっちゃけ上手くいくかは、その場の状況と運次第だし。できるかどうかも、正直曖昧なんだけどさ……」

 などと、一応は前置きをしておく。そんなグダグダと話をする俺に、業を煮やしたロキは「い・い・か・ら!」と、組んでいた腕を解いて俺を指さす。

「勿体ぶってないで、さっさと言え! お前は『、その案を考えたんだろ!」

 ロキの言葉に、俺は驚く。先程まで、信頼だの信用だので揉めていたのに……。偉く信頼されたものだ。

 ロキの後ろでは、妹を抱えたセージが微笑んでいる。セージに釣られて、俺も小さく口角を上げる。

 どうやら先の行動と俺の覚悟で、ロキの信頼は勝ち取れたようだ。なので俺は、ロキにをふっかけた。

「じゃーロキ。とりま作戦開始から30に、ここら辺の魔獣を一通り狩り尽くしてくれ!!」

 清々しい程の爽やかな笑顔で、俺はそう言った。

 一方のロキとセージはと言うと、顔を真っ青にして俺を見返しては、固まった。

「……は、はぁ!?」

 ロキは口を魚のようにパクパクとした末に、ようやく出た言葉だった。

「お、おま、お前っ! 僕を一体、なんだと思ってるんだ!?」

「そ、そうですよヤヒロさん! さすがにそれは、ちょっと無理が過ぎるのでは……?」

 セージがロキへの助け舟を出そうと、俺に抗議する。すかさず俺は、腕で大きくバッテンを作って、首を盛大に横に振る。

「いやいやいや、よーく考えてみろよ。俺は今から生身で30分、あの道化師ヤローを相手するんだぜ? その一方、戦い慣れしてる上に武器もあるロキさんですよ? 魔獣で、遅れをとったりなんかしないだろ〜?」

「は、はぁ……?」

 ロキは片眉をピクリと動かすと、低めの声で俺を睨みつけてくる。

「まさか、30分じゃ足りないのか? ……まぁ、そうだよな〜。ロキも連戦でお疲れ気味だし、魔獣にも手こずっちまうだろうな〜。……でもなぁ〜、俺にも限界ってのがあるからな〜。それ以上あの道化師ヤローを引き付けておくってのは、現実的に考えてなぁ〜、これ以上は無理があるからな〜? すまんロキ、やっぱり無理だよな。今のは無しだ。全部忘れてくれ!!」

 わざとらしく大袈裟に、身振り手振りで俺は残念がる。そして横目でチラッとロキを見れば、顔を真っ赤にしては、怒りでプルプルと肩を小刻みに震わせていた。

「言・わ・せ・て、おーけーばー……っ!」

「ロ、ロキ……落ち着い……」

 セージの制止を無視し、ロキは拳を握る。

「あー! 分かったよ! やってやろうじゃねーか! ここら辺の魔獣、ぜーんぶ、僕が狩り尽くしてやろうじゃねーか! それでお前の気が済むなら、やってやろうじゃねーかよ!!」

 俺はニヤリと笑う。チョロい……コイツ、案外チョロすぎる!

「よーし、言質取ったからな。『やっぱり出来ませんでしたー(泣)』は無しだからな!」

「誰が泣くか! お前こそ! 僕を馬鹿にしたことを、全力で後悔しろよ!!」

 ロキが地団駄を踏んで去ろうとするので、俺はロキへ本題を告げる。

「あ、そうだロキ。道化師の対処法なんだがな。魔獣を倒し終えた後、俺のところに来てくれ! んで、鎖で拘束した後にこの札を投げてくれ」

 俺はロキがから受けとっていた、『貼ったモノを強化する札』と『結界を張る札』を取り出す。

「『押してダメなら、引いてみる』。この札を使ってで道化師を縛って、その上で。そうすれば多分だが、少しは道化師を拘束できるはずだ」

 俺の思わぬ札の使い方に驚いたのか、ロキもセージも驚いた顔をする。そしてロキは再び小刻みに震えると、キッと睨んで札を奪い取る。

「そ・れ・を! 早く言え! この、バカ兄貴!!」

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁

 と、言うわけだ。

 何故、道化師がロキの拘束を解けないのか。それは『札によって強化されたロキの鎖』と、結界を張る札によって道化師は『結界内に閉じ込められた』。簡単に言ってしまえば、道化師は今、鎖と結界でなのだ。

「まぁ、そういう訳で。簡単には抜け出せない仕組みにしたなんだわ。上手くいったみたいで、何よりだぜ」

 心優しい俺は、道化師に簡潔に説明してやった。

「ただの補助程度の札を、こんな使い方するなんて……。お前くらいのもんだろ」

「そうか? 要は機転と使い方……の、違いだろ?」

 俺は数回、自分の頭を指でつつく。

 ここまで本気で死ぬような、捨て身な作戦をしたんだ。こちとら、この世界でこれから二人も養わなきゃいけねーんだ。上手くいってもらわなきゃ、本気で困る。

「どうだぁ、道化師サマ。今のお気持ちは?」

「たかが人間の、分際デ……!」

 道化師の言葉に、俺は口角を上げる。

「そうだ、俺はただの一般人で、お前の言う弱い人間だ」

 俺は腕を伸ばして、親指を立てる。

「そして『』……そう、侮ってかかってきた。それがお前の、一番の敗因だ」

 そしてゆっくりと、そのまま下に向けて下ろす。

「あまり人間を舐めんなよ?」

 そう言い放てば、道化師は忌々しそうに俺とロキを睨みつけ、下を向く。

 そして何かがおかしいと言わんばかりに、突然

「クックックックッ……。ワタシは、まんまとしてやられた訳……デス、ネ」

 その笑いに、ロキが眉間に皺を寄せて睨む。

「テメェ……、何がおかしい!」

「コレはそうですネ……。とても楽しい、『即興インプロヴィゼーション』デシタ……☆」

 道化師の不気味な笑いや含みに、俺は違和感を覚える。

「デスが……アナタ方ハ、最後の詰めが甘かったようだ……!」

 道化師は『バッ!』と顔を上げる。そして歪みきった笑みで高らかに笑い始め、オレたちを見る。

「我が主への忠誠! アナタ方の首で!」

「証明しましょう!!」

 後方から全く同じ声が聞こえ、俺たちは振り返る。

 そこには捕らえたはずの【それ】が、俺に向かって剣の切っ先を伸ばしていた。

「なっ……!?」

「今度こそ! 死ネェェェェエエ!!」

 ロキが慌てて鎖を構える。……が、間に合わない!

(ヤバい……! 死……!!)

「ちぇぇぇぇ……りょぉぉぉぉおおお!!」

 ……甲高い声が、どこからか聞こえてくる。

 それは何十年も聞き慣れた、少女の声。

 そしてその声が聞こえたと同時に、道化師は『』によって横から壁にめり込むように殴りつけられる。

「グッ……ガハッ……!」

 俺とロキは、何が起こったのか分からずに呆然とする。が、直ぐに思考をフル回転させる。

(この声……いや、まさか……!)

 俺は驚きつつも、恐る恐る声の主へと視線を向ける。

「かーんざっきけーのー、かっくーん!」

 夕日をバックに、『何か』に仁王立ちした声の主である少女は、長い髪を揺らす。

「『やられたら、倍以上にして返す』!」 

 夕日で逆光になっていても、その声やシルエットで分かる。その少女の、見慣れた容姿が。

「だよね、!」

 俺をこの世界でそう呼ぶのは、たった一人しかいない。

 思わず目頭が熱くなるのを、グッと抑えて俺は頷く。

「あぁ……、そうだ!」

 そこに居たのは、昨日森の中で出会った木の化け物と、その化け物の枝に仁王立ちで立っている。我が妹の姿だった。

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