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放課後の相談室。 机の上には誰かが落としていったプリントの切れ端がまだ残っている。
ドアが開くと、小柄な男子が入ってきた。肩からリュックを下げたまま、すぐに椅子に腰を落とす。
「……別に大したことじゃないんだけどさ」
彼は机に肘をつきながら、目を合わせずに言った。
「俺、友達いるんだよ。一応」
「一応?」
「そう、一応。昼休みとか一緒に食うし、放課後も話す。でも……最近、置いてかれるんだ」
遥は手元のノートを閉じて、彼の顔をじっと見た。
「置いてかれるって?」
「なんかさ、みんなで遊びに行くって話してるのに、俺だけ声かけられないとか。グループLINEで話が進んでて、気づいたら写真上がってて。俺だけ知らなかった、とか」
男子は笑った。笑ったはずなのに、その笑いはどうしようもなく苦かった。
「……でも、別に嫌われてるわけじゃないんだよ。教室では普通に話すし。だから余計にわかんない」
「嫌われてるわけじゃないけど、いないときに進むんだ」
「そう。それって友達って言えるのかな」
遥は少し黙り込んだ。机の木目を爪でなぞりながら、ゆっくり口を開く。
「……俺もさ、似たようなのあった」
「え」
「一緒にいるときは笑ってんのに、裏では俺抜きで盛り上がってる。……俺の場合は、そのうち笑ってるときですら、嘘っぽいって気づいて」
男子は目を伏せた。
「それ、きついな」
「きつい。でも、気づいたらもう戻れない。……だから俺は、その輪から勝手に離れた」
「離れたら楽になる?」
「楽……っていうか、余計に孤独になった。でも、”また置いてかれるんじゃないか”ってビクビクするよりはマシだった」
男子は黙って考え込む。やがて、ぽつりと。
「じゃあ、俺も離れたほうがいいのかな」
「それはお前が決めることだろ」
遥は淡々と返したが、その声には妙な重さがあった。
「ただ……俺は、”友達って何か”をちゃんと決めすぎたのかもしれない」
「決めすぎた?」
「そう。裏切らないでほしいとか、絶対に一緒にいてほしいとか。……でも人って、そこまで一人に固まれないんだよな」
男子はうつむいたまま、手を握りしめていた。
――そうかもしれない。でも、それなら自分はどうしたらいい。
答えはまだ見えない。
沈黙を破ったのは遥だった。
「……俺は結局、誰とも深くは繋がれなかった。でも、それでも生きてる。だから、お前も”一応”でも繋がってるなら、捨てるのもありだし、しがみつくのもありだと思う」
「どっちにしても苦しいじゃん」
「そう。苦しい。でも……苦しいのはお前だけじゃない」
男子は顔を上げて遥を見た。
遥の目には、どこか遠い影が揺れている。まるで「自分はずっと一人だ」と言っているように。
――その視線に、男子は小さく息を呑んだ。
「……とりあえず、しがみついてみるよ。ダメだったら、そのとき考える」
「それでいい」
遥は短く答えた。
相談室を出ていく男子の背中を見送りながら、遥は深く息を吐いた。
――友達って何だろうな。
答えは出ないまま、窓の外に落ちていく夕日だけが、教室を赤く染めていた。