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《深夜》
静寂の中、じいさんのかすれた声が聞こえた。
「起きたようじゃの」
「……はい、マスター」
寝ぼけた頭が少しずつ覚醒していく。さっきまでカジノの喧騒に包まれていたはずなのに、今目の前にあるのはそれとは正反対の世界だ。
部屋は狭い。玄関と居間がそのまま繋がっている平屋だ。山奥のおじいちゃんの家、まさにそんな感じ。明かりだって、魔法で光っている電球がやけに古びて見える。
横になっていた装置も今までの派手なものとは違い、簡易的なものだった。人一人が入れる棺のような形状で、なんだか妙にコンパクトだ。
……そういえば、いつものことだけど、また下着姿で出荷されたな。まぁ、俺は男だし、気にしない。心はいつだって男だし。
「服はそうじゃの、好きなのを着るといい。そこに置いてあるからの。話はそれからじゃ」
「はい」
部屋の隅を見れば、いくつかの服が置かれていた。おなじみの青い服、ディーラー時代に着ていた露出過多のタキシード、奴隷教育のときに使っていたハイテクなボロ布。懐かしさに思わず笑みが漏れる。
悩むまでもなく、いつもの青い服を手に取った。
「では、座れ」
じいさんに促され、簡素な座布団に腰を下ろす。
「お茶は飲むかの?」
「いただきます」
奴隷はもらえるものは素直にもらう。それが正しい生き方だ。
虫の鳴き声が響く静かな夜。じいさんは魔法で作ったお茶を差し出してきた。茶葉を魔皮紙で濾しただけのインスタントな飲み物。それを見て思う。この世界、どこか近いようで遠い。
「ほれ」
「ありがとうございます」
湯呑を持つと、手のひらに心地よい温かさが伝わる。一口飲むと……懐かしい味だ。元の世界で言えば、暖かい爽健○茶のような感じ。ふと、猛烈に帰りたい気持ちが込み上げる。
「じぃじ……?」
不意に、小さな声が聞こえた。顔を上げると、奥のふすまが少しだけ開いている。そこから現れたのは__幼い金髪の女の子。
年齢は幼稚園くらいだろうか。ショートヘアが可愛らしく、あどけない顔がちらりとこちらを伺っている。全身から「可愛い」が溢れている。
「おぉ、すまない。起きてしまったか、ユキよ」
ユキちゃん。名前を聞いて、心の中でそっとメモを取る。
彼女はじいさんの背中に隠れるようにしながら、ちらちらとこちらを見ている。その仕草に心が爆発しそうだ。
……いや、待て。俺はロリコンじゃない。普通に可愛いだけだ。男の子の小さい子だって可愛いと思うし……って、え、これショタコンになる?どういう定義だっけ?
「じぃじ……」
「ほっほっほ、そう怯えるな」
「ん……」
じいさんがユキちゃんの頭を優しく撫でると、彼女は少し落ち着いたようだった。それでも、まだこちらを警戒しているらしく、隠れたまま小さな声で尋ねる。
「この人……だぁれ?」
ユキちゃんの澄んだ瞳が、じいさんに向けられる。
「ん?この人かい?この人は__」
奴隷ってどう説明するんだ?「何でもしてくれる人」とか「お手伝いさん」とか、そういう言い方をするのか?
そんな思考を巡らせていると、じいさんは俺の予想の斜め上を行く答えを口にした。
「お前の“お母さん”じゃ」
「……え?」